すみた

ピンク・クラウドのすみたのレビュー・感想・評価

ピンク・クラウド(2021年製作の映画)
3.7

触れたら10秒で死んでしまう綺麗なピンクの雲

突然現れて、そしてどこにも行かない
ずっと、ずっと、僕たちを覆っていた

気づいた時にはもう、ここには
ピンクじゃない雲はなかった


いつか終わりが来ると信じていたあの頃は
ずっと家にいる中での楽しみを
どんどん見つけて行った

そして気づいた時には
僕達は家でしか生きていなかった
このひとつ屋根の下、だけ、で生きていた

ピンクの雲に覆われたのは
この世界だけじゃなくて
いつしか僕の心も覆われていたみたいだ


狂っているのは
この世界か、それともこの僕か



☁  ☁  ☁  ☁  ☁  ☁  



突如コロナ禍が始まったあの時は
早めに実家から一人暮らしの家に帰って
春休みがあと数日で終わるって時だった

学校は登校なしでオンラインになって
そこから半年学校に行くことはなかった

3月終わりから学校が始まる8月終わりまでの約5ヶ月間
ずっとひとりぼっちだった

誰とも会わず
ただ自分だけのお城に引きこもっていた


楽しかった


少し寂しかったかもしれないけれど
今何度思い出そうとしても
その寂しさを思い出せない

それくらいに、楽しかった

それはたった5ヶ月間のことだったけれど
本当に最高の日々だった


ピンクの雲が覆ったあの世界は
5ヶ月どころではなく何年何十年続いていた

さすがにそこまでは体験したことがないから
想像が及ばないけれど
でも、私はその世界でも楽しめる気がする


決して無駄に楽観的なわけではなく
おかれた状況で自分にはどうしようもすることもできない
"しょうがない"と思えてしまう頭だからだ




コロナ禍ではたくさんの人が犠牲になったし
たくさんの人が人々を救うために働いた
そしてそれは今もまだ続いている

そして学生だった私は
今では病院で働き始め、まだまだ半人前どころか1/3人前くらいではあるけれど
それでもある意味、救うことに携われるようになった


コロナ患者さんに防護服を着て対応することもできるようになったし
コロナ病棟が満床になっているのを何度も目の当たりにしたし
人々が悲しい結末を迎えるのみた
医療従事者ということでたくさんワクチンを打って副反応に耐えたし
そして私もこの前コロナになった
その時はもし次朝起きた時息が出来なかったらどうしようと思う夜もあった


だからこそ
コロナ禍になって良かったと
声を大にして言うことはもちろんできないが
(たくさんの人々の葛藤と苦しみがあったから、そして今も続いているから)

それでも、良かったと思えることが
私の中では(あくまで私の中では)いくつかある


人と人の距離がいい意味で遠くなったし
本当に親しい人たちとの心の距離は縮まったし

行きたくもない飲み会に行かなくていいし
自分のパーソナルスペースは守られる
付き合いは本当に仲良い人たちとだけに限られたし
いい意味で人間関係の整理がされた
マスクしてると心は落ち着くし
そして自分の時間を大切にできる時間が増えた


もしも戻れるなら
あの5ヶ月に戻りたいと私は思ってしまう
無駄な人間関係の労力を使わなくていい
あの素晴らしい日々に

でも10年もひとりぼっちでいたなら
私はそのドアを開けて
ピンクの雲に自ら触れてしまうのだろうか

それは実際そうならないとわからない気がするけれど

それでも私はその中でも
生きていくと思う、生きていけると思う

ピンクの雲とともに
すみた

すみた