耶馬英彦

サバカン SABAKANの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

サバカン SABAKAN(2022年製作の映画)
3.5
 中村雅俊が主演した「俺たちの旅」というテレビドラマがあった。テーマ曲を小椋佳が作詞作曲していて、エンディングの「ただお前がいい」の歌詞の終わりは次のようだ。

 また会う約束などすることもなく
 それじゃまたなと別れるときの
 お前がいい

 小椋佳の歌には時の流れについての歌詞がよく出てくる。人生は諸行無常、出逢いと別れを繰り返す。曲調はたいてい物悲しい。しかし「ただお前がいい」だけは、物悲しさよりもほのぼのとしたあたたかみがある。

 本作品の孝明と竹ちゃんの関係にも、しみじみとしたあたたかさがある。互いに「またね」を繰り返しながら別れる。それは多分、いい思い出に違いない。

 子供の頃の想い出には、どこか物悲しさがついて回る。陽光の降り注ぐ暑い夏の記憶も、何かしら肌寒さのような実感を伴って思い出される。それは学校の仕組みのせいかもしれない。学期が三つに分かれていて、それぞれの学期の終わりに長期の休みがある。休みが終われば次の学期、それが終わると再び休みだ。時の流れを否応なしに実感せざるをえないのである。
 しかしそれだけではない。学校には卒業がある。つまり別れだ。校舎との別れ、教師との別れ、同級生との別れ。心を通わせた友だちとの別れは特に辛い。思わず涙が溢れることもある。そしてやがて悟る。さよならだけが人生だ。

 小学校時代の同級生と未だに連絡を取り合っている人は少ないと思う。当方も小中学校の同級生は連絡先さえ知らない。学校の友だちの殆どは馴れ合いの関係だ。何の益にもならない。
 しかし本作品の孝明は、竹ちゃんから勇気を教えてもらった。この思い出は孝明の一生の宝になったはずだ。なんだか羨ましい。
耶馬英彦

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