シャチ状球体

サバカン SABAKANのシャチ状球体のレビュー・感想・評価

サバカン SABAKAN(2022年製作の映画)
3.6
久々の邦画鑑賞。

まず、2023年の現在に売れない作家をしている草彅剛のダウナーな演技がかなり巧い。何事もネガティブに捉えて周囲の空気を重くし、なのに表情は穏やかで常に影のある笑みを浮かべている。過去に生きている(今を生きていない)人の諦念が外面ににじみ出ているようだ。

メインとなる1986年の回想は年代設定が絶妙で、実写版某丁目の夕日のような明らかに美化された過去ではなく、少なくとも経済指標は今よりも遥かに良かったバブル時代なので主人公が昔を想い懐かしむことに説得力がある(体罰やジェンダー観のように今の方がある程度アップデートされた点もほんの少しだけあるけど)。
2010年代にインターネット上でリバイバルブームが起きたシティ・ポップもこの頃量産されていたし、とにかく”明日は今日より生活が良くなるから生きてさえすれば何とかなる”、という希望が市井の人々の生活から伝わってくる。

男性社会の中で行われがちな外性器を揶揄するいじりやジェンダーロールの強要が無批判のまま描写されていたり、テーマ性があまりないので冗長なシーンが多いところはあるけど、現実と地続きで”激甘ではないノスタルジー”に浸れるのは結構な数の観客に響きそう。

尾野真千子が口調が荒めの母親役を演じていて、たぶん10回くらいこういう役やってるよね……と思ったりしました(♪作品に対する興味と潮が引いていく音)。
シャチ状球体

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