GreenT

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのGreenTのレビュー・感想・評価

3.5
「やっぱり愛だよ、愛!」って結論に達するのにこのぶっ飛び展開!めっちゃ面白かったです。

エビリン(ミシェル・ヨー)は中国系移民のアメリカ人。コイン・ランドリー/クリーニング屋を経営しているが、今年も恐ろしいIRS(米国国税庁)の監査の準備に一苦労。

IRSの監査官ディアドラ(ジェイミー・リー・カーティス)は重箱の隅を突くようないや〜な監査官で、エビリンは商売を取り上げられる恐怖にかられる。

このディアドラが、「これ、ジェイミー・リー・カーティス?!」ってしばらく思っちゃった。顔はわかるんだけど、すっごい汚い感じにさせられていて、それをマジメに演じているから「まさかジェイミー・リー・カーティスじゃないよね?!」とか思ったけど、やっぱそうで笑った!

このキャラめっちゃ怖い!!

エビリンの娘のジョイは、20代後半くらい?レズビアンで、白人(メキシカンとのハーフ)のガールフレンドがいる。タトゥーもしているらしく、まともな仕事もしないでフラフラしているようで、エビリンとしては娘を理解できない。

この辺の、「中国系移民の子供はアメリカナイズされすぎて親との距離がすごい開く」とか、「IRSで英語わからなくて四苦八苦」とか「中国では女の子は大事にされなかったのに、ボケた父親を呼び寄せて面倒みないとならない」とか、中国系移民の憂いがリアルだなあ〜と思ったら、監督チーム「ダニエルズ」の1人って中国系アメリカ人なのね。

『スイスアーミー・マン』の監督が撮った映画だって知らなかったら絶対観てなかった作品。

エビリンは「世界を救えるのは君しかいない」と国税局のオフィスで言われ、マルチバースに巻き込まれていくのだが、このオフィスのシーンが「『マトリックス』だ!」って思った。

で、ミシェル・ヨーだから絶対アクション・シーンある!って「お!待ってました!」ってなるところがカンフー映画のパクリっぽくて面白い。

んだけど、やっぱミシェル・ヨー年取ったのかなあ。早回しなのが露骨にわかっちゃってそこはちょっとガッカリ。コリオグラフィーしているのはカンフー映画っぽくていいけど、速度はリアルにして欲しかった。だってミシェル・ヨーだよ!

90年代にアメリカ人がカンフー映画をパクリ、今は中国系アメリカ人が『マトリックス』をパクる・・・・時代が一周した感じが良い!

あと、アクションを撮るアングルが新鮮だなあと思った。

エビリンの旦那さん、ウェイモンドの役がキー・ホイ・クァンって役者さんなんだけど、なんとあの『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説 (1984年)』『グーニーズ (1985年)』で活躍していた子役!

この人もアクション・シーンあったけど、普通に頑張ってた。奥さんの尻に敷かれた冴えない旦那さんなんだけど、他のパラレル・ユニバースではスーツ着てめちゃカッコ良くて「やっぱ役者ってなんにもでもなれるのね!」と感心させられる。

この人はアジア人俳優には貰える役がなさすぎると2000年頃に引退したらしいんだけど、最近はアジア人俳優の仕事も増えているので復帰したら、二個目のオーディションがこの映画だったらしい。

娘のジョイ役のステファニー・スーは「中国版フローレンス・ピュー」って感じでなかなかチャーミング。ラスボス・ヴィランのジョブ・ツパキが乗り移っているので、エビリンは娘と戦わなければならない。

この、「娘が敵」っていう設定が、要するに「親と子の確執」「世代の衝突」であり、パラレル・ユニバースでエビリンがカンフー・スターだったり、ジェイミー・リー・カーティスとレズビアンだったり、あとなんだっけ?って色んな設定があるって言うのも、「もし、ウェイモンドと結婚してなかったら?」「もし、アメリカに移民して来なかったら?」っていう「人生の可能性」というか、そういうリアルにみんなが考える「私の人生ってなんなの?」的なものとSF的設定がリンクしているから面白い。

みんなそうやって「私の人生ってなんなの?」って振り返るところは万国共通なんだけど、エピソード自体は「中国系アメリカ人」の憂いに特化して描いているところが良い。「みんなの声を語る」とか言って、自分の知らない分野に広げると「わかりもしないくせに」ってなるので。

ダニエルズがブルーレイのメイキングで言ってたけど「自分らのお母さんの世代の人を自分らの世界にぶっこんだらどーなるか」ってことでお母さんを主人公にしたらしいのだが、この発想はすごい。ミシェル・ヨーが主人公だから私でも見れる。あれが娘のジョイ世代の人しか出てなかったら、私の年齢の人には退屈な映画でしかないと思う。

あと、ジョイ世代のニヒリズムを象徴するのが「Everything Bagel」っていうのが個人的にはピンと来た。つまりこの世代は、多分Z世代?なんでもある、なんでも与えられている、だけどEverything is nothing、なんだか空虚。

日本にもあるのかな、Everything Bagelって。「全て入っているベーグル」ってことだと思うんだけど「全部入ってたら、どの味の個性も死んじゃってつまんないじゃん」って一度も食べたことないので、このEverything is nothing ってのの象徴にこのベーグルを使ったって気持ちが分かる(笑)。

パラレル・ユニバースに「ジャンプする」ためにしなくちゃいけないこと、ってルールがあって、それがいちいち「不快」で面白い。「ペーパーカットしないとジャンプできない」って、ウェイモンドが紙の端っこで指を切ろうとトライするシーン、「うわああああ止めて〜〜〜〜」ってなった。しかも長い、このシーン!

とか、「尻の穴に尖ったものを刺さないと覚醒できない」っての?めっちゃ趣味悪いけど笑った。ダニエルズの中国系じゃない方って、『ディック・ロングはなぜ死んだ』の監督なんだって?この人アナル・セックスになんか思い入れあるよね。

あと色んな映画へのオマージュも多いんだけど、指がホットドッグでできている人間のパラレル・ユニバースの「創世記」が『2001年宇宙の旅』の猿が戦うところなんだけど、これがパロディっぽくてツボだった。

鉄板焼のシェフのパラレル・ユニバースのラクーンも可愛かったし、石になっちゃうパラレル・ユニバースの石も可愛い!

ちょっと「結婚」「離婚」「子離れ」「子供と理解し合う・やっぱできない」的なのがグダグダして「いつ終わるんだよ!」とは思ったが、観ている最中はすっごい面白かった。ただ長かったから最初の方の面白かったこととかふっとんじゃって、もうちょっとコンパクトにしてくれた方が良かったとは思う。

色んなテーマが入っている割には、最後の「やっぱり愛だよ」的なアプローチが月並みなのもな〜って思ったけど、最近の映画って保守的でつまらないものが多いので、こういうぶっ飛び設定にしただけでも新鮮に感じた。でも『スイスアーミー・マン』の方が好きだなとは思う。まあ〜、こちらはアヴェンジャーズのルッソ兄弟がプロデューサーですからね〜。

フォローしている映画レビュー・サイトの人が「20歳だったら、今年最高の映画!って思ったかもしれないけど」って言ってて、私もそれに賛成でした。

追記 (3/25/23)
2回目観てきましたが、1回目より面白かったです。

パラレルワールドにポンポン飛ぶのも、次の武器を調達しているだけで、カオスに見えるけど実は意外とストレートだったし、登場人物の行動の動機も理路整然としていた。ギャグが1回目より爆笑できたのも意外だった。

あとジェイミー・リー・カーティス!この人の助演女優賞受賞は全うだと思った。

忖度じゃない!すごい演技の幅がある。絶対『ワカンダ』のあの女優よりいいのは間違いないし、ケリー・コンドンより印象に残るキャラ。さすがのキャリアだなあ~と思った。

情けない旦那さんからスーツ似合う大人の男まで演じたキー・ホイ・クアンは初見から感心してたけど、「違う世界で君とコインランドリー経営して税金の計算してみたい」とか言うじゃん?あれ忘れてた!余計カッコ良く見えるぜ!
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