くりふ

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのくりふのレビュー・感想・評価

3.5
【セカイ系カンフー】

まずはミシェル・ヨーありきかなと。ホントに疲れたオバサンに見えて、でもカンフーは会得しており、地味だが奥深い魅力も担保している。彼女だからこそ、面白い。

で、彼女を適切に使い、アホマジメに遊び倒すこの感覚がちょい、珍しかった。長尺に身構えたが、そう退屈はせず、愉快な思いはずっと続いて終わりました。

マルチバースにはふーん、て程度。仮想敵が作りづらくなって、敵は身内だの犯人は実は自分だの、攻撃が内へと向かう流れの中でひとつ、必然的に出てきたものだと感じている。

この監督ズ作品は初見ですが、物語とか映画そのものより、遊び場の作り方が巧いんじゃないか。スチャラカだがやるこたーやる幹事さん、みたいな映画監督ズ。

哲学っぽい仕込みもあるようだが、それを読み取ったところで、現実の問題解決には役立たずだから意味がない。本作のお陰で酒乱DVオヤジが治った!なんて、ないわなーwww

本作にある家族の問題は、枯れたヒロインに珍妙ビンタをし続け、目を覚まさせる薪に過ぎないかと。蘇るオバサン、夫と娘を思い出す…物語で、それ以上でも以下でもないと思う。

ベーグルは意味ありげだが、ベーグルであることが示すように、意味はない。あの円環は『メッセージ』のエイリアン文字を連想したが、あっちと同じで意味、あるようでない。

座禅を組んで悟ったような気になる…のと同様、そんな気分に浸る装置でしかないでしょ。

そもそも、家族の問題をあんな大仰な遠回りせんと解決できないって、むしろ現実逃避だ。

本作も、遅れてきた“セカイ系”のひとつだなと思う。日本発で、世界に蔓延っているのね。

そもそもこの物語の発端は、余計なことしたら宇宙がおかしくなっちゃったってコトらしいがwww

私は余計なこと考えず、ミシェル・ヨーによるセカイ系カンフーとして面白かったし、そのヤラレ役にジェイミー・リー・カーティスを配した贅沢さにも、ニヤニヤできました。

キー・ホイ・クァンは、『オハナ』での復活ぶりが嬉しく、笑点山田くんみたいな風貌だなーと思っていたが本作では、こんなジャッキー・チェンに似てたんか!とニヤニヤした。この父ちゃん、弱っちいようで、割れ鍋への綴じ蓋していて、いい男だなあ、と思う。

ヒロインの、母親である物語としては、娘が解らなすぎてパラノイアとなり、それを解決するためマルチバースを妄想する…という構造になっていれば、スンナリ呑み込めたかも。

アジア系のオバサン主役による珍妙アクションコメディが、思いがけずヒットした!という事件は素直に嬉しいし、今後の動向にも期待できます。

また全体、手づくりDIY風の映像仕上がりには、好感を持てましたね。

<2023.3.5記>
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