せいか

わたしの可愛い人 シェリのせいかのレビュー・感想・評価

わたしの可愛い人 シェリ(2009年製作の映画)
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7.19、レンタルDVDで視聴。
原作既読済み(続編のほうはまだ)。原作が最初から最後まで残酷さを滲ませつつも美しい夢のような色彩を保ったまま最後まで描ききっていたり、その中での主人公二人を中心とした繊細な人物描写にものすごく心を打たれ、そんな作品を映画化したというので気になったので観てみた。
結果、原作小説だけを美しい小箱の中に閉じこめておけば良かったと思いました。観ないほうが良かったと開始五分から延々思わされる地獄でした。

構成などもだいぶテコ入れしており、物語はココットとはこんなものという説明が諧謔的にテンポよくなされ、そのまま、シェリとレアがくっつくまでを先に描く。時間軸のいじりなどはあるがおおよそまあ原作のキーとなる部分はちゃんと拾いつつ物語は進行しているといえる。が、とにかくずっとそれなのに原作と決定的に噛み合ってない感じが続く。キャラクターにも一切の深みがないままで、それどころかレアという人物があまりにも簡単な人間に成り下がっている。ラストの「私のせいであなたは子供のままなのね」みたいなのも、せやなと突き放したくなるような、ひたすら自分の恋に生きてまともに嫉妬したりしてるようななんかもう原作がとにかく恋しくなってくる改悪がなされている。甘えがあるもうそろそろいい歳の若者と母親的な庇護してくれる愛人の面もある女の繊細さが全く描かれていない。シェリとの関係はヒモて繋がっていないというようなところも強調するどころかむしろヒモみたいなもんというところが強調されてたり。関係のちぐはぐさ、破滅に向かわざるを得ない切なさがない。
というか、この映画はレアに寄り添っていないし、シェリにも寄り添っていない。誰にも寄り添っていない。母離れをして子供から脱却して寂しさを背負う男というものも、老いに追いかけられる女も、現代においても胸をチクチク刺してくるものがあるのに、そこも主題として拾いきれていないでただ撮ってるだけ感。さきほども触れたラストの印象深いセリフもなんだかこの映画においてシェリに仮託された若者に対して甘ったれた感傷と許しを与えるものというものに成り下がっている。
とにかく、最初のココットの説明が露骨にそうであったように、作品そのものを軽いものにしてしまっている。

あんまり普段はこんなふうには思わないしそんなところに着目はしないけど、開始十分もするころには、「これ、男が作ってるな」とぴんときたので調べてみたところ、やはりメインどころは男が並んでいた。それが分かるくらいにはこの作品をそういう目で作り直しているところがある。肝が分かっとらんとか何様かというようなこともとかく言いたくもなってくる。たすけて。
本作、あらゆるところにグロテスクさが垣間見えるのに、シェリの母親やレアの友人関係にしろ、退廃放蕩にしろ、ラストのレアにしろ、そこを結局キレイに撮ったのもどうかと思う。本作における醜さにちゃんと目を向けてないのでは。

また、ファッションや内装などの美術はどこもどれも美しいが不思議なくらいフランスの空気は出せていないのも見所といえるだろう。主役を中心に英米の人々が並ぶからなのかもしれないが(言語も英語である)、なんなんだろうな。そこは面白かったです。

あと、原作の続編部分の肝要なところを最後についでにナレーションで処理されたのはくさはえました。

まとめ。
この映画は結局のところ主題らしい主題もないまま、原作を一応それなりに(改悪しつつ)なぞっているだけでからっぽな印象を与える作品でした。
原作読もうぜ!!!
せいか

せいか