矢吹健を称える会

すずめの戸締まりの矢吹健を称える会のレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
3.0
 東京に着くあたりまでは、まあいろいろ違和感をおぼえつつも『君の名は。』や『天気の子』と同程度に面白い映画だと思っていたし、ユーミンべた使いはパヤオへの伝言に違いない、こういう余裕が身に着いたら人間怖いゾイ……などとぶつくさ言いながら見ていた。ちょっとすれ違ったイケメンのために授業をサボり、育ての親に嘘ついて日本横断を自ら先導するヒロインはだいぶ狂人だが、初めから一貫しているともいえる。

 しかし、そこから自動車旅が始まると、なんか急にいろんなところがほころびはじめる感じだ。そもそも自動車の移動が面白くないうえに、それまでさんざん主人公たちをひっかきまわした猫が、何事もなかったかのように同行しはじめて、緊張感が希薄になる。黒猫の存在もよくわからない。あと、主人公が実家へ向かう理由というか必然性に説得力がかなり欠けているように思われ、そういえば『君の名は。』も最後わけわからん理由で話が進んでいたなあ、こういうとこやっぱり同じなんだなあと感じ入ったりもした。

 とはいえ、それは作劇の問題に過ぎない。個人的に一番もやもやしてしまったのは、本作が明らかに東日本大震災を参照している点である。いや、かの災害を題材とするにあたって、かなり細やかな配慮があったのだろうと、描写のひとつひとつから察せられもする。例えば、神木隆之介演じる芹澤が、草の生い茂る風景の美しさを称え、それに主人公が驚きを覚えるシーン(まあ、ここの意味は後で人のレビューを読んで初めてわかったんですが)とか。
 けれども、災害を人間――ごく限られた、一部の人間――の営みによって防止しうるという描写が、「現実」に起きた震災とリンクするのに、非常に違和感あるというか、正直言って、最後に「今後も好きな人と会いたいし、普通に生活したいので! すんません生かしてください!」みたいなこと叫んでる人たちを見て困惑してしまった。いやそりゃそうだろうけど。なんか、のうのうと生きてる自分の負い目を抽出して、美化して提出されたような感じ。否定できないからキツい。まあそれも含めて、新海誠的な、歪で狂った世界観だとも思う。