リミナ

すずめの戸締まりのリミナのネタバレレビュー・内容・結末

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

『君の名は。』『天気の子』を経て日本を代表するアニメ映画監督となった新海監督。最新作はあの「3.11」に真っ向から向き合い新たな扉を開いた意欲作。

物語の大筋や軸、発想の起点などは入場特典の冊子に記載されているため割愛。
以下、特に印象に残った点や気になった点など。

【物語面】
・実在の土地や店舗、商品などに加え、本作では出来事も加わりより現実に近づく
・その土地に住む人物の想いに触れ、衣類という形も受け取りつつ次の土地へ目指すロードムービー
・草太の「大事な仕事は人からは見えない方がいいんだ」のセリフは、後に皮肉にも要石にされた姿に重なる
・好意を寄せる草太と東京都民の命の2択を迫られるセカイ系に通ずる展開において後者を取る新鮮味
・現在の被災地の景色を目の当たりにした被災者(鈴芽)と他者(芹澤)の反応のギャップ(綺麗が指すものの違い)
・鈴芽の故郷での過去の声「行ってらっしゃい」の重み(返ってこない「ただいま」の言葉)を踏まえてのラストシーン
・ダイジンとサダイジンの行動原理がやや分かりづらい(だからこそ人間との違いが際立つ面もある)
・場所やシチュエーションの違いはあれど、やることは基本同じのため展開が
・意味深に鈴芽の周りを舞う蝶々(亡くなった肉親の魂の暗喩?)

【映像面】
・何気ない日常を生きる一般市民(=観客)を地震発生前に映すことで没入感を高める
・警報が出るほどの地震に対する一般市民の反応のリアリティ(直ぐに避難行動を取らない慣れによる危機感の薄さ)
・人間よりカラスなどの動物が地震に感づいた行動を取る描写
・地震の原因であるミミズのビジュアル、大鯰のように地中で暴れる訳ではなく地面の上に倒れることで地震が発生する視覚的分かりやすさ(ずっと地下でアクションするのは絵面的に地味なためもあると思われる)
・扉、ノブのバリエーションの多さ、終盤では過去作にもあったような電車の扉のカットも
・後ろ戸以外にも扉や鍵の開け閉めを映したカットが何度も登場
・尺の都合か、カットを割って移動過程を省く場面もあるが、序盤の温泉街では同じ道中を同ポジで比較的に見せる作りに
・椅子をコミカルに芝居させる斬新さ、感情が読み取れる動かし方になっており、寝る描写はギャグとして成立
・作画監督は1人+補佐4人の劇場作品ではかなりの少数体制、全編通して統一感のあるコントロールされたような画面に
・芝居、アクション作画ともに全編を通して見所がある
・夜の民宿での鈴芽と千果の会話シーンが他とは違う枚数多めの動かし方で目立っていた
・アクションシーン以外にもキャラの感情の動きに応じてカメラを大きく動かすカットが多め
・炎や水などのエフェクト類が作画で描かれているカットも
・戸締りに当たって衣類が汚れるだけでなく破けてそのまま行動させるひと手間

【音楽面】
・実際のものではないが、不快感のある警報のアラーム音
・鈴芽が日記を開くシーンの劇伴の使い方
・陣内一真氏との共作であるためか、過去2作と比較してRADWIMPSの主張が控えめでありマンネリ感無し
・昭和の懐メロをサブスク(Spotify)で若者が流す描写、ここ1、2年でTikTokを中心に懐メロブームが再燃しており現実とリンク
・懐メロも過去を蔑ろにしない現れ

「3.11」発生から10年以上経とうとも完全な元の姿には戻れない現状。
人によっては本作で当時の記憶がフラッシュバックして拒否反応を示すかもしれない。それも承知の上で向き合いながら意見を押し付けず、エンターテインメント作品としても成り立たせた意義は大きい。
仮に同じ題材でも監督が無名の方なら、周囲の受け取り方も変わっただろう(そもそも日の目を浴びない可能性もある)。大きな実績と影響力を持つ人物が作り上げたからこその力がある。
本作をきっかけに、立ちはだかる困難に向かって一歩でも前進できたらと思わされる。

最後に、サントラには劇中では流れなかったRADWIMPSの楽曲が2曲収録されているので併せて是非。
リミナ

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