シズヲ

ファミリーファミリーのシズヲのレビュー・感想・評価

ファミリーファミリー(2019年製作の映画)
3.6
おふくろは認知症、長男はニート、唯一の稼ぎ手はアルバイトの次男坊。家庭の貯金も底を尽く寸前という状況の中、次男に予期せぬ不幸が訪れる……。そんなこんなでまたまた短編映画視聴。どう考えても生活保護とかを受けた方がいい家庭だけど、まず情報が無いので頼りひ行く段階にすら立ててないんだろうなぁ。こういう貧困層をちゃんと掬い上げられるのが本来あるべき福祉であることを改めて噛み締めてしまう。

夜中に「よい、よい……」と踊り出す母親の声に起こされて「母さんもう夜中だよ!」と窶れ気味に怒る次男、そんな冒頭の生々しい閉塞感がもう強烈。慣れでは到底片付けられないストレスの溜まり方、身に覚えがあるだけに余計に痛ましい。その後もゴミが溜まった不潔な部屋や賄いで済まされる食生活など、“介護と貧困で行き詰まった家庭”のディティールが薄暗く映し出される。“ゴキブリのカサカサ音”で戯画的に描かれてるけど、兄貴の方も明らかに発達障害らしき挙動なんだよな(“ヘイ”のニュアンスへの異様な拘り、都合の悪い説教を喰らってパニックに陥る姿とか)。

作中で描かれる状況の絶望感は凄まじいけど、何処か奇妙なユーモアがあるのも印象的。ボケた言動を繰り返す母親、妙に甲高い声で喋るニート兄貴、そんな二人に挟まれる次男。先行きの見えない家族の掛け合いは明らかにどうしようもないのに、何となく間が抜けたようなシュールさが漂っている。それ故に暗いテーマながらも何とか見ていられるし、終盤のピクニックのささやかな解放感も印象深い。息子達について語り出す母親も、兄貴に対する弟の訴えも、じんわりと染みてくる。作品に向けられた眼差しの根底に温もりがあるんだなあ。

そして結局は困窮したままだけれど、それでもほんの僅かな“再起”と共に映画は幕を下ろす。エンディングで映し出される“在りし日の家族写真”の切なさが愛おしい。あの“幸せな家庭”の行く末として作中の困窮が描かれるだけに、これはこの社会における“普遍的な閉塞感”であるということを痛感してしまう。
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