たく

マザーズのたくのレビュー・感想・評価

マザーズ(2016年製作の映画)
3.4
なんとも思わせぶりなアリ・アッバシ監督の長編デビュー作。子どものできない夫婦から代理出産を頼まれた女性の身に起こる異常な現象を描いてて、邪悪な存在を身ごもった妊婦といえばどうしたって「ローズマリーの赤ちゃん」を連想する。愛する子のためには周囲の存在など意に介さないという母性のエゴと狂気が怖かったね。ホラーの雰囲気はなかなかだったけど、ちょっと単調さが目立ったかな。

シングルマザーのエレナがルイスとカスパー夫妻の家で住み込み家政婦として働くことになり、エレナとルイスが親交を深めてすっかり打ち解けたところで、流産を繰り返してたルイスがエレナに代理出産を依頼する。それを引き受けたエレナが授精するシーンから突然アスペクト比が変わるんだけど、その意図が最後まで分からなかった。

ルイスたちは自給自足の生活をしてて、家には電気がなく、ときどき祈祷師のような人物を呼んでヒーリングを受けてるという普通じゃない暮らしに不気味さが漂い、妊娠したエレナの様子は日に日におかしくなっていく。これは出産に対する潜在的な恐怖を象徴的に描いてるのかとも思ったんだけど、エレナの身体に実際に異常が顕れてきて、悪魔の子を身ごもったんじゃないかと思わせるホラー的な雰囲気になってくる。

それまで主役と思ってたエレナがフェイドアウトするのが驚きの展開で、結果的に無事に生まれた赤ちゃんの邪悪なパワーのせいなのか、祈祷師やカスパーが赤ちゃんの前で正気を保てなくなる。邦題は卵子を提供したルイスと代理出産をしたエレナの二人の母のことを表してて、ルイスが子どもの邪悪性を認識してたかどうか分からないけど、自分の子のためにはエレナの身に何が起ころうが、男たちがどう反応しようが構わないというエゴと狂気を感じた。最後にルイスの後ろに亡霊みたいな存在が現れたのは何だったんだろう?ビョルン・アンドレセンが「ミッドサマー」で話題になる前にこういう作品に出演してたのは知らなかった。
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