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エンパイア・オブ・ライトのchunkymonkeyのレビュー・感想・評価

エンパイア・オブ・ライト(2022年製作の映画)
3.0
ゆったりした映像と音楽がとても素敵!「1917 命をかけた伝令」「007 スカイフォール」のサム・メンデス監督、主演はオリヴィア・コールマンで、スピルバーグの「フェイブルマンズ」、デイミアン・チャゼルの「バビロン」と並び2022年の「三大"映画文化を賛美して賞をもらおう"作品」の一つという位置づけでよいかな。

かつて栄華を極めた1980年代イギリスの寂れた映画館で働く男女の恋と映画鑑賞の素晴らしさが静かにスローなペースで描かれます。が、それ以外にも、メンタルヘルス、孤独、人種差別、パワハラ・セクハラ、中年の危機など様々な要素が詰め込まれ完全に消化不良で全体に薄味、特に後述する人種差別の扱い方には問題がありモヤモヤ。

しかも監督によると、あろうことかその問題となる人種がメインテーマだと?ただただ困惑デス... 映像、音楽、演技、ほっこり要素など称賛に価する面がたくさんある映画だけになんだかなーと思ってしまいました。

映画館の様子が美しい音楽とともにゆっくりと映し出される冒頭はとても魅了される!その後も一つ一つのシーンがホントきれいにキマッてます。が、きれいなだけで、2時間弱の尺にも関わらず登場人物が何たる存在なのかほぼ不明で、心にいまいち響かず...もっと二人の過去や彼らがどんなものを胸に抱えながらあの映画館で働いているのか知りたかった。もちろん、コールマンが一人で映画を観るシーンとかそこそこはグッとくるんですけど。

これ、シンプルに二人の友情(本作なぜ二人を恋愛関係にしたのか理解不能、普通に疑似親子風な男女の友情でいいよね...)と映画の持つ魔法の力だけに焦点を絞って、時間を90分くらいにしたら傑作になったんじゃないのかなぁなんて思いました。

さてさて、黒人差別の扱い方のひどさ。メンタル・ヘルスやセクハラについても同様なんだけど、あまりにも「他人事」として描かれていて唖然😱まるで「人種差別は一部の差別主義者と黒人間の問題でしょ?ほら見てよ、こんなに普通に黒人に優しく接してるじゃん。だから、白人だけど自分たちには責任ないし関係ないよ。」という製作陣の思いが透けて見えます。

黒人の青年スティーヴンに恋をする主人公の中年オバサンのヒラリーはもちろん、映画館の従業員たちはスティーヴンの抱えるこの深刻な社会問題に立ち入ろうとも守ろうともしません。そんな彼らは本作で皆温かくいい人として描かれる。序盤の男性客の一件でスティーヴンは一瞬だけヒラリーに怒るけど(しかもあたかもスティーヴンのプロ意識に欠けた過剰反応かのような扱い)、すぐ何もなかったように仲良く。それどころかスティーヴンの母が差別をしていてヒラリーに和解を申し出る?2022年の映画でこれはちょっと信じ難い...

映画館という非日常の場で、思うように上手くいかない自分の人生を少し忘れて夢物語を見させてくれる映画の素晴らしさ✨。皮肉なことに本作にはそんな素敵な映画の効果は感じられませんでした。ただ、全体にハートウォーミングで映像や音楽もゆったりと心が洗われるような空気感、さら~っと鑑賞すると得られる癒しの効果は十分にあると思いますので、まぁご興味があれば観てみてくださいな。

コリン・ファースが嫌いになりそう(笑)。
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