【帝国は枯れても、光は灯る】
サム・メンデス監督の新作で、舞台は英国海辺の寂れた街…の映画館、ってトコで惹かれ、行きました。
007や1917で、私の好きなメンデス道からはみるみる外れたが、本作で『レボリューショナリー・ロード』辺りまでは戻ってくれたかも、なんて勝手に期待したが…違った。
ずいぶん、優等生ぽくなった。これもコロナ禍の弊害か?自伝的要素が強いらしいが、思い出補正が美化させたのか?…それとも最早、退屈な王道を走るしかないのか。
牽引するヒロインのオリヴィア・コールマン、それを静かに激しく受ける受難黒人青年マイケル・ウォード、それぞれ端正な味わいがありました。オリヴィアさんは『ロスト・ドーター』であそこまでの剥き出し演技をしていたから、新味はなかったが。
青年は建築科志望でしたが、舞台となる映画館がメチャ魅力的で、建築としてもメチャ価値的でした。正面より、背後から俯瞰する巨体が凄いね。ロジャー・ディーキンスの撮影は、淡い美化には走っているが、やっぱり眼に、スクリーンで見る至福を運んでくれます。
何の話かと思ったら、要は、アラフィフ女性のハイリスク・ラブストーリーなのね。オリヴィアあってこそ成立しているが、この物語をメインに据えたのは小さな挑戦でしょう。
おひとりさまオバちゃんが恋バナの主人公なんて話…もっと増えるべきだ!
彼女が抱える精神的トラブルなどが、フェアな描写かはちと、怪しいですが、映画館の魅力と、もう一つの柱をこう立てたのは、本作の大きな成果だと思います。
ラブの行方はえ、案外あっさり。でも、より踏み込めば、社会的泥沼となることは必至。忍んだことが大人の矜持でしょう。青年の母の、引き裂かれるような想いが熾烈な楔でした。
物語のピークは、映画館での“プレミア修羅場”でしたねえ。まさかヴァンゲリスの、あの清涼な曲をバックに戦争が始まるとは!笑っちゃいけないのに肩が震え…痛快でした!
…でもアレ以降は、割と凡庸なエピソードが並んで、終わっちゃった。英国特有の黒人差別など、史実を振り返る価値はあるし、悪くはないけど、心に響くまでは沁みこまない。
そもそも振り返ってみると、舞台が映画館でなくても、この物語は成立するんですよね。
一方、個人的には、2つの映画との連想から味わいが増しました。
本作に行こうと思ったもう一つの動機が、1987年の公開時に心惹かれた『あなたがいたら/少女リンダ』と、サッと重なったから。
アチラも自伝を元に、50年代を80年代に映画化しており、英国海辺の寂れた街…の映画館が重要でした。奔放な少女が映写技師と…。本作は、アチラから地続きのような気がする。
もう一本は、1991年の『ジャングル・フィーバー』。異人種同士のセックスを揶揄するタイトルでしたが、物語を本作起点で並べると、英国の静の約十年後、米国の動として出てくるワケで、振り返るとお国柄と時代差がちゃんと反映されているなあ、と感心したのでした。
振り返ると、満足度は高くないものの、見てよかった!とジワれる一本となりました。
あ、でも、ひとつ、腹立ちポイント。
…ポップコーンを粗末にするな!
<2023.2.25記>