こたつむり

エンパイア・オブ・ライトのこたつむりのレビュー・感想・評価

エンパイア・オブ・ライト(2022年製作の映画)
3.9
♪ どうして雨は降る 辺りはぬれてない
  途方にくれるだろう 乾かない髪の色

1980年代のイギリス。
鬱病を患った孤独な中年女性の物語。
…と聞くと少し重たい感じですが、舞台を映画館にしたことで、柔らかい雰囲気になっています。ロビーに漂うポップコーンの香り。闇を切り裂く光。映画館の朝を感じるオープニングも良きです。

勿論、上っ面だけを撫でた作品ではありません。
かなり下世話な部分にも踏み込み、中盤では「もうやめて!彼女のヒットポイントはゼロなのよ!」と言いたくなるほど。痛々しいですねえ。ぐへ。

仕上げたのはサム・メンデス監督。
デビュー作である『アメリカン・ビューティー』に感じた“排泄物に手を突っ込む”演出は未だ健在。その分、綺麗なものが際立つんですね。

それは、人と人の繋がり。
目の前に高い壁が立ち塞がっているように見えても、それは自身の思い込みかもしれず。別のところに視線を移せば、そこに“道”があるのかもしれないのです。

いやぁ。本当に映画って良いものですね。
小説は行間を読む想像力を鍛えてくれますが、映画は空気を読む想像力を鍛えてくれると思うんです。それが闇の中でスクリーンに当てられた光の功績。

また、本作の場合。
歴史に刻まれた過ちも教えてくれました。
階級社会であるイギリスは保守が強い国。だから、黒人排斥運動も激しかったのでしょう。見慣れないものを異物として捉えて排除する…それは世界共通の人間の本能なのかもしれません。

しかし、それに立ち向かうからこそ。
“人間が知的な存在”と言えるのです。
少なくとも、肌の色で差別するのは想像力の欠如。本作はそんな側面にも光を当てていました。

まあ、そんなわけで。
優しくもあり、痛くもある物語。
ダンディな印象が強いコリン・ファースが“ゲス”な役柄で出演している時点で、綺麗事だけで終わらないことは確実。アダルト向けの作品ですが、若年層も是非。
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