カタパルトスープレックス

TAR/ターのカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
3.3
SNSによるキャンセル・カルチャーを背景として、指揮者を通じて「支配と被支配」をテーマとして描いた作品です。

本作は主演のケイト・ブランシェットに当て書きして作られた作品だけあって、抜きんでたキャラクター造形が特徴です。それが全てと言っていい。ドキュメンタリーのように話が進むのですが、ケイト・ブランシェットは演じる本人になり切っていて、観客はケイト・ブランシェットが演じるリディア・ターが実在の人物なのではないかと錯覚してしまうくらい。その一点だけ取れば、すごい作品です。

リディア・ター(ケイト・ブランシェット)はあらゆる分野で活躍して指揮者として絶頂を極めていた。作曲者の意図を自分の中で解釈して、時間をコントロールして表現するのが指揮者。理解と支配。ターの「支配」はオーケストラの演奏だけでなく、周りの人全てに及んでいたが……という話です。

本作でも言及されていますが、フルトヴェングラーやカラヤンといった過去の偉大な指揮者たちは音楽的には素晴らしいけど、人間的にはだいぶ難ありだった人が多い(と言われている)。しかし、それはSNSもない昔の話で、今はキャンセル・カルチャーの時代。パワハラやモラハラはすぐに訴えられてしまいます。

テーマもストーリーも非常にシンプルなのですが、とにかく長い。なぜ長いのかといえば、いろんなものを詰め込もうとしているから。いろんなエピソードが詰め込まれているのですが、もっとスリムにできたと思います。例えば、子供の話なんて必要なかった。最後のエピソードも(地獄の黙示録的にやりたいことはわかるが)必要ないでしょ。観客を楽しませるより、自分の表現したいことをとにかく詰め込むことを優先した印象しか残らない。作品としてのバランスはあまり良くないと感じました。特に事件らしい事件も起きない前半は退屈。

終わりから始まるやり方とか、フラッシュバック的な表現など映画技法としては凝ってましたけどね。それも独りよがりな表現だと思います。