すっごく面白かった。新感覚。
上映時間は長いけど、だからこそ。オープニングでケイト・ブランシェットの長ゼリフに引き込まれて以降、予想を超える展開に魅せられた。フィリピンのシークエンスにも唸らされ、ラストで「そうきたか!」と唖然となり、嬉しくなった。
鑑賞後も謎は残るし、色々な解釈ができるけれど、無責任に観客に放り投げるのではなく、答えを持ったうえで要素を分解し、戦略的に再構築した感じ。そこが良い。
登場人物の作り込みもそう。序盤はケイト・ブランシェットに見惚れていたのだけど、絶対的な権力を持つ典型的なおじさんだと徐々に明らかになる過程で、色んなギャップを前に、自分の観念が掻き回されるような感覚になった。それをミステリーの手法で描くなんて興味深いし、センスが良い。
(マエストロに限らず実際あんなおじさんは多いが、自分がTARでもああなるかもしれず、改めて歴史と構造と偏見の問題が大きいと考えさせられた)
ストーリーに直接的には関係のない、いじめっ子への対処、悲惨な大家の母娘、顔面の傷などのエピソードも的確で鮮烈。予測不能な心に残る作品だった。