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神々の山嶺のスクラのレビュー・感想・評価

神々の山嶺(2021年製作の映画)
4.5
<人はなぜ危険を冒してまで、山に登るのか>

ジョージ・マロリーの名を聞いたことはあるだろうか。
彼がエベレスト登頂に成功したか否かは登山史上最大の謎と言われている。
このマロリーがエベレスト登頂時に持っていたとされるカメラの発見をきっかけに物語はスタートする。

ストーリーは孤高のクライマー・羽生と、彼を追うカメラマン・深町の二人を中心に展開する。
彼らが不可能とされる冬季エベレスト南西壁無酸素単独登頂に挑む姿を通じて観る人は何を感じるだろう。

私がこの映画を観て感じたのは、登山家たちの矜持であった。
彼らは他人が登頂に成功したのか否かはたいして興味がないのだ。
己が目標とする山への登頂に成功したか、しなかったのか、それに尽きるのだ。

「なぜあえて過酷な道を自らに課して、登山家は山の頂を目指すのだろうか。」
この映画を観た人にこの問いの答えを聞いてみたい。
(コメントしてくれたら嬉しいな。)

日本の作品が原作だけど、この映画の制作自体はフランスなのが本作の素晴らしいところの1つ。
キャラクターの雰囲気や日本の描写に違和感がなく、
エンドロールが流れるまで「外国作品」であることを忘れてしまうほどだった。
日本語版の吹替えを担当する堀内賢雄と大塚明夫は、制作側からのオファーだそう。
それがぴったりとはまり役なの、すごくないですか?!
他国が舞台の作品作って、他国の声優をしっかりと指定できるって、
そうとうその人の演技を見聞きしてこないと無理だよね。
日本への愛やら敬意やらがたくさん詰まった作品だった。

少し残念なのは、本作の原作者・夢枕獏先生の作風とか世界観を知ってないと
タイトルの重みとか劇中の描写とかが十分に楽しめない点かな。
原作本を読むのもいいけど、『呼ぶ山 夢枕獏山岳小説集』読んだ方がより分かりやすい気がする。
でも、改めて思うけど、夢枕先生の作品を谷口さんが漫画化して、それをフランスで映画化したのに、
ちゃんと夢枕先生の世界観がちゃんとアニメ化されているのってすごいよね。
観るまで、こういうミステリーは夢枕先生にしては珍しいな、とか思ってたけど、
観終わったら、「あ、やっぱり夢枕先生の原作だわ、納得」としか言えなくなった。

ちなみに、映画の宣伝の仕方からこの映画はマロリー登頂の真実を明らかにするものかと思ったらそうではなかった。
ミステリーっぽくしたかったのか分からないけど、このミスリードの宣伝は映画への評価も下げかねないので、ちょっと賛同しがたい。
素直に「なぜ人は山に登るのか」ぐらいでアンバサダーにイモトさん起用したら盛り上がりそうなのに。
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