七色星団

神々の山嶺の七色星団のレビュー・感想・評価

神々の山嶺(2021年製作の映画)
3.9
神々の気まぐれな声に翻弄され、願いは叶ったり叶わなかったり。そのうえ生命まで献上する羽目になっちゃったり。
それでも山に魅入られた孤高の人達の旅は何処までも続く。

原作小説は上下巻で1000ページオーバー。本作のベースとなった漫画版は一巻300ページオーバーで、それが5巻で完結するボリューム。
その壮大な物語を上映時間が90分強の作品にまとめる為、羽生と深町の行動に焦点を絞ったのは凄く潔かった。そして例えばマロリーのカメラの謎や、彼等に関わる他のエピソードをカットはせずに、小さな枝葉のようにして断片的に散りばめることで、羽生と深町の行動に意味を持たせることに成功している。
唯一、文太郎との遭難のくだりは大きく端折らず描いていたが、ここでは高所で誰にもすがることの出来ない恐怖感の凄まじさに縮み上がりました。
特に僕が一番嬉しかったのは、原作小説で僕に響いた部分が1mmも外れることのなかった脚色が本当に素晴らしかったこと。

そして、もう一つの主役はエベレストを始めとして登場する山々だ。日本のアニメのように隅々まで精緻で、コントラストパッキパキな画作りではなく、彩度控えめで時に絵の具が滲んだように、時にどこか水墨画のようにも感じさせる作画が、”神々”である雄大で荘厳な山々の描写にピタリとハマっている。
この映画で描かれる山をバックにしたカットが一々美しくて、最早この映像をまとめたBlu-rayが出たら買いたいぐらい。

それにしても、雪山の岩壁に張り付く人間の何と小さく、か弱き存在であるものか。
あの絶望的な孤独を体感する為に映画館へ行く価値はこの映画には十分にある。
だからスマホで見るなどは以ての外だろう。

最後に。
町並みや風景、人の暮らしがフランス製のアニメということを忘れさせるくらい日本の日常として違和感なく描かれていたのは驚いた。それと、やっぱりフランス人から見たアジアの人ってのは、顔立ちに凹凸が少なく同じ様な顔に見えてるんだろうなぁというキャラクターデザインが面白かったです。
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