ワンコ

アンネ・フランクと旅する日記のワンコのレビュー・感想・評価

4.0
【繰り返す歴史】

戦争や迫害の犠牲者を慰霊する場所で、胸が苦しくなったり、ひどい息苦しさや頭痛がするところがいくつかある。

ひめゆりの塔や、広島の原爆ドーム、長崎原爆遺跡、東京都慰霊堂などがそうだが、アムステルダムのアンネ・フランクの家に行った時も同様な感覚があった。

別に僕に霊感があるということではない。

いわゆる「アンネの日記」は、アンネ一家が逮捕された直後にアンネが書き記したものが散乱した状況で発見された時から、2009年にユネスコ記憶遺産に登録されるまで、真贋論争が絶えない著作物だった。

父親のオットーによって、最初に出版物として刊行されるにあたり、アンネが母親のことをひどく嫌っていたことを綴った部分や、ペーターとの恋愛・性的描写、ペーターの両親のことも嫌っていた記述が、オットーによって除かれていたことも、不幸な真贋論争の遠因となっていた。

この作品は、キティーの目を通して、反抗期も恋愛もする、アンネがどこにでもいる普通の女の子であり、学校や病院、劇場に名前が冠されるような人物とは異なり、迫害の中でも普通の幸せを求めていただけだと伝えることと、また、現代にあっても、そうした迫害されたり難民となった人々が、人間としての最低限の生活を願っているだけなのだと世界中の人々に伝えたかったのではないかと思う。

第一次大戦後、特定の専制国家が圧政を行ったことも大戦の原因だとして、ウッドロー・ウィルソンが、民族自決を唱え、東欧を中心に複数の民族国家が誕生した。

それにつけ入って、ヒトラーがドイツ系民族保護を掲げ、ポーランドやオーストリアなど東欧諸国を併合していった。

その過程で、ラインハルト・ハインリッヒが考え出したユダヤ人虐殺計画が進行するのだが、これは、豊かだがヨーロッパで迫害されることが多いユダヤ人の存在を否定・密告させ、収容所送りにする罪を多くのヨーロッパ人に共有させることによって、ナチスのヨーロッパ支配をより容易にする目的もあったのだと考えられている。

こうしてユダヤ人の家や資産を手に入れたヨーロッパ人は沢山いて、アンネやペーター一家が隠れていることを密告したのも彼らの友人だった。

話は少し戻るが、今、プーチンが、ウクライナがナチスだと形容したりしているが、それは真逆で、ロシア人保護を掲げウクライナに攻め入っているロシアこそがナチスと同じなのだ。

普通の人々が、普通に、迫害に立ち向かう。

今、必要とされるのは、僕たちも含め、世界中にいるこうした人々の強い気持ちだ。

ウクライナやシリアなどに一刻も早く普通の人の普通の暮らしが戻ることを願ってやまない。
ワンコ

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