こうん

ケイコ 目を澄ませてのこうんのレビュー・感想・評価

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
4.6
ようし観に行くぞと席を予約していたその当日、ちょっと熱があったもんでなんとなしに抗原検査したらばマジか陽性…結局コロナ罹患でなんとかかんとか療養明けで年内滑り込み鑑賞。膝すりむきました。

評判が良いみたいだけど、なんたる地味な、あまりにも地味な映画であることにびっくりしつつ、しかしその充実度においては尋常ではない映画的意思というか強度というか、そういうツオイ(©アラレちゃん)ものに溢れており、シビレマシタね。

一応ボクシング映画である、ということは言えそうだけど、僕としては東京映画として、まずは素晴らしいと思いました。

観ている間、強烈に成瀬を感じたんですけど、成瀬の観た東京の残響がこの映画にも宿ってる気がしました。千住あたり風景や電車の律動や人の影など、映っているのはコロナ禍の荒川区なんだけど、愛おしい既視感に溢れていた気がします。そのへん、ちょっと三宅監督に聞いてみたいです。

それから、映画の呼吸や呼気といったものも素晴らしかったな。
ボクシングの風景における打撃やフットワークなどの律動がそのまま映画のリズムとなり、そこにケイコの肉体の魂の躍動が重なって映画の駆動となっていくさまそのものがスリリングであるのと同時に、音が聞こえないし言葉を発することのないケイコの感情旅行をより鮮明に浮き上がらせていくナラティブが、なんとつつましやかでかつエモーショナルなことか。
ついに観客はケイコの内面と同化し、文字通り言語化出来ないケイコの瞳に宿る感情に打ちひしがれることになっていたのではないかと思います。
あの鮮烈なラストショットの連なりに「あぁ…!」と心奮えずにはおれませんでしたね。

通常、よっぽど映画に飲み込まれない限り、映画の序破急や起承転結をなんとなく読みながら観ていて「クライマックスすぎたからもうすぐエピローグだな」的なことを考えたりしちゃうんですが、本作においては一切そういう浅薄な理性が発動されず、まんまとケイコの感情旅行を追走するような心持ちになっていましたね。

それで映画は思わってましたけど、僕はまだケイコの呼気を、同じ空の下のどこかで生きているケイコを感じているような錯覚にとらわれています。

やるかやらないか、という人生の重大な局面で、やる、という勇気ある選択をしたケイコは東京のどこかで生きています。
(…というとこまで書いて本作が「ロッキー」の後継映画でもあるということに気付きました)

面白かった…快哉!
こうん

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