基本的にロードムービーにかなり苦手意識があると思っていたけど、こういう作品を観ると、意外とそんなことはないのかな?と思ったりします。多分、私が苦手なロードムービーは、主人公たちが後先考えず大暴れするタイプの作品なのでしょう。
本作は、亡き妻を想い、ある目的地へ向けてひたすらバスで旅する老人の話。ただそれだけ。観る前は、いわゆる“頑固爺”物かと思っていたらそんなことはない。普通のおじいちゃんの温かくも切ないお話でした。背景こそ違うものの、“約束を果たしに目的地へ進む”、“旅の中で世代を越えた人々の温かさに触れる”という内容や途中途中で挿し込まれる過去の記憶の見せ方など、作品全体のフォーマットや印象はパブロ・ソラーズ監督の「家へ帰ろう」を思い出させます。
話の内容や展開が面白いというよりは、色々な人々との触れ合いの様子と、旅の景色の美しさと、ゆったりとした時間の流れ(本人は物凄く急いでいるのですが)を味わう作品。旅景色の移り変わりもあって個人的には長編のイメージビデオを観ている感覚も少しありました。
妻との回想シーンはベタだけど、やはり心にくるものがありますし、旅で出会う温かい人間も冷たい人間(敢えて善悪とは書きませんが)の適度なバランス感も良い。かなり単調な話なのに、最後まで全く見飽きずに惹きつけられました。ただ、これが2時間半とかだったらかなりきついので、この短尺がちょうど良かったと思います。
ややファンタジー的な展開(ちょっと綺麗過ぎ?)が後半にあり、そこは気になったものの、穏やかな気持ちで、時に切なく、時に温かい気持ちになれるいい作品でした。