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マイ・ブロークン・マリコのtrickenのレビュー・感想・評価

マイ・ブロークン・マリコ(2022年製作の映画)
4.0
90分未満と感じないほど豊かな映画をたっぷり見せられたように感じられたのは、1シーンごとの長回しの多用によるものか。窪塚正孝の首まわりも含めた演技のニュアンスが無限の時間を思わせるものだった(特に新規につくられた電車での別れのシーンにおける彼の横顔の長回し)。

また、端役ながら後半に重要な役割を果たす女子学生が存在感ありすぎて釘付けになった。映画公式サイトでは書かれていないが、伊礼姫奈〔いれい・ひめな〕という人だったらしい(推し武道実写版等に出演ということ)。

主演のシィを演じた永野芽郁は『ハコヅメ』実写ドラマシリーズでの川合巡査の役で意識したが、あの川合と正反対なシィの演技が実にサマになっており、確認するまでその2つの役がつながらなかった。特に、街灯の下で号泣した直後に口元に糸を引いていたシーンは実写ならではの悲壮感を具現化していたと感じる。

全体的に、それぞれの部屋(シィの部屋、幼い頃の破綻したマリコ実家、現在時制のマリコ実家、一人暮らしを始めた後のマリコの自室、ブラック会社のオフィスおよび休憩室、街中華の食堂、海辺の飲み屋など)の小物やレイアウトなどの生々しさが、実写映画ならではの質感で迫ってくるものになっていた。この美術の良さは実写映画のスタッフが手を抜かないことによって実現しているものであり、こうしたものを映画館で鑑賞できることは得難い美的経験だと感じる。

また、言うまでもないことかもしれないが、この映画がWikipediaで「ジャンル:シスターフッド」と付けられるほどに、漫画・映画ともに「シスターフッド(女性同士の絆)」を主題として取扱っていること、そのジャンルで重要な作品となることが違いないことは、改めて祝福すべきことだろう。日本国内でもこれに続くシスターフッド映画の名作が増えることを期待したい。

(私的な話となるが、この映画を観た後に、『ユリイカ』2022年11月号(今井哲也特集)に掲載された「三丁目クォンタム団地」(2013年初出)でも、少女時代のマリコと似たような境遇の少女がゴミ屋敷の奥の部屋で父親にレイプされているらしき描写があり、更に心が痛んだ(※作品としては優れていることは前提として、直前の映画経験が生々しさを補強したということ)。

▼原作/映画での変更点
1. 【追加】ブラック職場の遠景描写いくつか
2. 【追加】マリコ実家を襲撃する手前に、マリコの部屋に行って散骨だったとアパート管理者に確認を取る場面
3. 【変更】バッグがリュックから肩掛け鞄に
4. 【変更】深夜バス、隣の客がいなくなる
5. 【追加】バスで女学生を見かける
6. 【変更】飲み屋のレイアウト
7. 【追加】一夜明けて、歯磨きの提案
8. 【追加】警察署での取り調べと女子学生からの手紙の受け取り
9. 【追加】列車前で弁当を渡す(「生き続けるしかない」の台詞が海岸からこのシーンに移される)
10.【追加】職場復帰して退職届を破られた後、中華食堂で労働基準法をググるシーン
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