このレビューはネタバレを含みます
主人公は女性小説家。連絡の途絶えた友人に会うためソウル近郊の小さな書店にやってくる。短い訪問のあと近所のタワーから景色を眺めていると知り合いの映画監督とその妻に遭遇する。どことなくぎこちないそのあと公園で出会った女優と意気投合。短編映画を撮る約束をする。
小説家が一日の中で偶然の出会いを続け、最終的に振り出しに戻る。ホン・サンスの過去作と同じように一見すると劇的な展開はない。しかし言葉の端々から過去に起きた出来事への怒りや創作に対する情熱などが伝わってくる。何らかの理由で演技や執筆活動をやめてしまった人々が登場するのも印象的だ。
この映画が”小説家の映画”と名付けられているのは、主人公が小説家であると同時に、その小説家が撮った映画が内包されているからに違いない。小説家の口を借りてホン・サンス自身の映画観への言及がなされるのは想定内だったが、最後にこの小説家がホン・サンス自身と結合する瞬間が見られるとは思わなかった。
もしかすると自己言及が自己弁護と受け止められる可能性も無きにしもあらずだろう。そこに抵抗を感じる観客がいるのも当然だろう。ましてキム・ミニと監督の関係性について、ここまで踏み込んだ表現がなされるとは正直驚いた。
とはいえ現時点でのホン・サンスを映し出す作品として十分におもしろいし、彼のことを何もしらなくても味わい深さがある。噛めば噛むほど楽しめる映画だと思った。
