回想シーンでご飯3杯いける

午前4時にパリの夜は明けるの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

3.8
ホームレスの少女タルラがパリの地下鉄路線図に仕掛けられた電飾のスイッチを押していくオープニングが印象的。何だか良く分からない邦題が付けられているけど、原題は「夜の乗客」という意味で、シャルロット・ゲンズブールが演じるシングルマザー、エリザベートがスタッフを務めるラジオ番組のタイトルでもある。

ミカエル・アース監督によるこれまでの作品では、街のハブとして公園の存在が象徴的に描かれていた。本作でハブとなっているのはラジオのの深夜番組「夜の乗客」である。その乗客として番組に参加したホームレスのタルラもまた、'80年代のパリを想起させる存在として配置される。

本作で描かれる1981~1988年は、それまでの保守系政党を破り大統領に就任した、社会党系のミッテラン政権時代とリンクしている。放送法が大幅に改正された時期らしく、女性が番組のパーソナリティを務めている事や、聴取者参加型の企画が導入されている描写等は、フランス人にとって当時の自由なムードを思い起こさせる物なのだろう(日本もこの時期は深夜ラジオが人気だった)。

エリザベートの娘ジュディエットが社会党系の政治活動に参加している様子が挿入され、彼女の発言からエリザベートの元夫は極右思想の持ち主であった事を伺い知ることができる。近年の日本では想像し難いが、政治思想やそこから生まれる価値観の違いから、家庭が分断してしまうというのは十分にあり得る話で、本作はタルラという「乗客」が訪れた事で浮き彫りになるエリザベートの離婚、再出発、子供達の成長を描く、実に味わい深い作品に仕上がっている。