このレビューはネタバレを含みます
自分の子供を殺した少年と再会する男の話。
子供が主役になる事が多いダルデンヌ作品ですが、本作は珍しく大人の男が主人公。
子供なら子供というだけで危険=サスペンスが生まれるものの、大人はそういうわけにもいかず、本作ではミステリーに比重が置かれています。
実際、映画が開始してから少年の正体が明かされるまでに30分も掛かっているし、それ以降も、少年の犯行内容や反省の有無は終盤まで明かされませんからね。
大人が主人公とはいえ、被写体に接近するカメラワークや俳優の身体表現を活かした描写など、いつものダルデンヌ兄弟らしい演出は健在。
説明が少なく、先が気になる脚本も相変わらずで、確かに「少年は何者なのか?」という謎には引かれるものがありました。
ただ、本作の場合、謎を引っ張り過ぎたがあまり、ちょっと感情移入が阻まれる部分もあったかなと。
結局、少年は主人公の子供を殺した加害者である事が分かるわけですが、一言に殺人と言われても、いろんなパターンがあるわけで。
物の弾みで偶然に殺してしまったのと、イジメの延長で故意に殺したのでは、その罪はまるで違うものですし、裁判の量刑が納得出来るものか、そうでないかでも、受け取り方は違ってくる事でしょう。
本作は、そうしたディティールが明らかにされないが故に、ふわふわした印象のまま見進めてしまいました。
この辺の解像度を上げてくれれば、「赦しとは何か?」や「更生とは何か?」といったテーマをもっと掘り下げる事が出来たかもしれません。
少年がはっきりと悪人だったらなら、まだ良かったものの、変に学習意欲がある手前、教師として、なかなか恨むに恨めなくなる主人公。
最終的に被害者の父親である事を告げますが、「5年も罪を償ったんだ!」という少年の台詞を聞く限り、本当の意味で罪の重さを理解していない様子。
おそらく、彼が子供を失った親の気持ちを理解するのは、自分に子供が出来た時なんだろうな…。
それでも、最後に少年が主人公の元に帰ってきた事は、少なからず希望を感じさせます。
共に向き合う事を決めた、ここからが少年の贖罪の始まりであり、主人公にとっても再生の始まりになるのでしょう。