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息子のまなざしのnetfilmsのレビュー・感想・評価

息子のまなざし(2002年製作の映画)
4.2
 オリヴィエ(オリヴィエ・グルメ)は職業訓練所で木工を教えている。ある日、そこにフランシス(モルガン・マリンヌ)という少年が入所してくる。彼は木工のクラスを希望したがオリヴィエは手一杯だからと断り、フランシスは溶接のクラスに回される。しかしそこにはオリヴィエしか知らないフランシスの素性に関する秘密があった。オリヴィエという男はどこか寂しげで、その背中からはどこかもの悲しい印象を受ける。子供達に対しても決して熱血指導することなく、どこか淡々とした教え方で当たり前の日常を送っている。ありきたりな毎日を生きる男の元にある日、息子を殺した少年が現れ彼の心は大きく揺れる。今作が『ロゼッタ』以上に素晴らしいのは、厚みを帯びた物語と加害者と被害者の葛藤であろう。『ロゼッタ』では貧しい育ちの主人公が、社会の末端とも言うべき仕事にしがみつく様子から、ベルギーという国の貧困の在り方やなかなか這い上がれない社会の残酷さを描写していた。主人公の生活は常に同じことの繰り返しで、そこにシンプルな事件が起きることで波風が立つ。

 今作では主人公の勤める職業訓練所に加害者が入ることが、何よりも大きな波風として設定される。加害者と被害者の関係が、教える側と教えられる側の関係に発展することで主人公は大いに葛藤する。映画は冒頭から既にいつ爆発するかわからない爆弾を設定し、ジリジリした緊張感の持続を持ち味とする。別れた妻はようやく新しいパートナーを見つけ、彼の子供を身ごもっている。そのことが余計に主人公の中にある焦燥感や寂しさを煽っていく。生徒と先生はいつでも引き金を引ける関係にありながら、主人公は冷静に加害者の成長を見つめようとしている。職業訓練所から弟の貯木場までの40kmほどの途方もない道のりを、主人公と加害者の少年は2人きりで車に乗りながら目的地へと向かう。その際主人公と加害者の少年は迂回や回り道を繰り返しながら、ラスト・シーンへと向かう。保証人になることを、加害者少年が主人公に懇願するカフェの場面の残酷さは胸を打つ。相変わらずカメラは有りえないくらい近いが、その場面では例外的に少し離れ、2人がアップルパイを黙々と食べる様子を横並びで据えていた。その後サッカー・ゲームに興じながら、有り得ない願いを受けた主人公の心の葛藤は察するに余りある。時限爆弾はここで静かにその爆発へのカウントダウンが始まり、やがて大きな爆発が起こる。今作でもラスト・シーンの2人を冷静に見守るダルデンヌ兄弟の目線はあまりにも優しい。社会が悪いのか?それとも貧困が悪いのか?の二元論に立ちながら、そこにダルデンヌ兄弟は明快な答えを出す。
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