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PLAN 75のmmmのレビュー・感想・評価

PLAN 75(2022年製作の映画)
4.0
満75歳になると自らの生死を選択できる制度が
施行された日本を描いた作品

同タイトルの短編(キャストも異なる)が
2018年にオムニバス映画の一篇として公開されていますが
この作品が早川監督の長編デビューになるそうです。

そぎ落とした台詞と細部まで丁寧な演出
カメラワークが素晴らしかったです。
(登場人物が感情的にならない、
横顔や後ろ姿のショットが多く長回しや
真正面からカメラを見据えるなど)

音楽はアンビエントっぽくて、この作品においては
音楽で無駄に観客を高揚させないのも良かった。
(サントラでないかな…)


■■■■■■ここからネタバレあります■■■■■■
■■■■■■■■■ご注意ください■■■■■■■■

ここからは作品の性質上、主観がメインの感想になります。
考えの違いはご容赦ください。
ラストにも触れていますのご注意を。

インパクトの強いファーストシーンから
妙なリアリティがあり心がざわつきました。

物語は、PLAN75が施行されたところから始まりますが、
この政策の内容が実にうまくできていること。

・強制ではなく、あくまで生死は自ら選ぶことができる。

・申し込みに住民票は不要
 (雰囲気からすると身分証なども必要なさそう)
 あんなに面倒なお役所の手続きが、
 紙きれ1枚で成り立ってしまうのですね。

・申し込みをすると支度金として10万円が支給され、
 使い道は自由。

・プランはいくつかある中から選べるようだが、
 劇中で取り上げられるのは費用が一切かからない
 合同火葬・埋葬プラン
 このプランにすれば、さらに10万を好きなことに使うことができる

・担当者がつき、定期的に電話でサポート
 (15分/回)が受けられる。

・死後の所有物の処分や諸手続きもおこなってもらえる

主人公の角谷ミチ(倍賞千恵子)は78歳
ホテルの客室清掃の仕事をしています。
過去に婚姻歴はあったものの、夫とは死別
子はおらず一人暮らしという設定。

勤め先には比較的年齢が近いと思われる仕事仲間がおり
お喋りやカラオケをしたりと、細やかな楽しみもあるが
老い先について、PLAN75については各々考えがあるよう。

そんな中、突然の解雇、親しい人の死
再就職先や引っ越しが決まらないなどの要素が
重なったことが引き金となりPLAN75の申込をすることに…。

物語の流れからは、年金だけでは生活がままならないための
勤めであることが分かり、ハローワークに行っても仕事がなく
引っ越し先を探すにも家賃2年分の前払いなどの条件を出され
断られてしまう。

最後の砦、生活保護の相談に向かうものの、
日が高い時間にも関わらず本日分の相談は受付終了しており
炊き出しが行われる公園を眺めながら
途方に暮れる姿が印象的でした。

ミチが申込をするシーンもなく、申込んだ理由も
劇中で語られていませんが、
この制度、お金に余裕のある人には疎遠な制度なんですよね。
強制じゃないし、自分の死期は自分で決めたいという人は
別として、結局のところ、この制度に揺らぐのは、
金銭的な事情や先々の楽しみが思い描けない人ではないかと。

ミチはどんな気持ちで申込書を書いたんでしょうね…

そして劇中ではミチだけでなく、制度の現場サイドからも
描かれています。
申請窓口で働く岡部ヒロム(磯村勇斗)
コールセンターで、その日を待つ申請者の
電話サポートをおこなう成宮瑶子(河合優実)
施設で利用者の遺品整理などをおこなうマリア
(ステファニー・アリアン)

自分の親族の申請に直面したり、この制度の裏側を知り
疑念を抱いたり…
それでも自分の生活のため、家族を守るためと
腹を括って職務を遂行したりする中で抱く
複雑な心情が台詞に頼らず描かれていました。

マリアの、けして望んでついた仕事ではないが
「とにかく自分の家族を守らなくてはいけない」という強い意志。
おそらくそれを貫かなければ、あの場にいることは
できなかったのではないかと。

成宮が最後ミチと電話するシーン
「大切なことなので、最初にお伝えしたことをもう一度言います。
この制度はいつでも止めることができます」というシーン。
マニュアルを読み上げているようで、彼女自身の言葉ではないかと
感じさせるところで、いよいよ涙を堪えることができず。

悲しいというより、怒りとか無念さとか
色々な感情の混ざったものだったと思います。

岡部がおじを施設まで送り届ける道中、
そして引き返して連れ帰ろうとするまでの一連
本当に台詞が限られているのに、彼の心の揺らぎは伝わってくるし、
その行動も至極当然なことのようなことに思えました。
(施設に誰もいないのは、かなり斬新でしたが…)

そしてミチ。
彼女は既の所で思いとどまります。
施設を出て目の前に広がる西日に照らされ、
歌を口ずさむシーンもまた印象的でした。

監督は、架空の制度を媒介し「生きる」というテーマを
作品にもたせたとのこと。
倍賞千恵子さんも、この結末に惹かれオファーを
引き受けたと話されていました。

けれど私が思ったのは、ミチはこの後どうするんだろう
ということでした。
「生きること」を選択した希望より、
その後「この先生きていくこと」への不安が先立ちました。
元居た家に戻ることは可能なのか。
仕事はみつかるのか。
どちらも、あまり現実的には感じられず…
なんとも複雑で苦い印象を残しました。

そもそも財政逼迫を理由に施行した制度(という設定)
生活保護がスムーズにとおるかも悩ましいところ…

監督は、この作品は安楽死の是非を問うものではないと
インタビューでも話されており、
政治を分かりやすく批判するような表現などもしていません。

鑑賞後にインタビューを読んだので、
意外な感じがしましたが、余白を多く残していることも、
簡単に答えを出さず考えてほしいという思いであるとのことでした。
(ゆえ、キャッチコピーとして制度の是非が
強調されているのはとても残念)

PLAN75という架空の制度を除けば、
劇中の内容は現実とほぼ変わりないのではないかと感じています。

本来年金とは、倹しくてもそれで生活していけるはず
のものであったのに。
納めるものは納めても、減額されるわ、先々は見えないわ。
”残りはご自身の貯えでどうぞ”とは…
デートの心配とか本気でどうでもいいので、
国民の命や生活の心配をしてもらえないものかと思います。
どこの党ならこの現状と正気に向き合ってくれるのでしょうか。
そして政策は振るい落としたり諦めるさせるためではなく
生かすためのものであるべき。

慣れはとは恐ろしいもので、何から何まで自己責任とされることが
常となり、諦めたり致し方なく受け入れることにも
疑問を持たなくなった現代への警鐘でもあるようにも思えました。

既に現状、諦めた風にみえる日本人は、
誰かにとって都合のいい存在だと思いますが…

なんだか説教をたれるようなレビューになってしまいました。
そして作者の意図とは結構違う方に揺さぶられてしまいましたが、
考えることを諦める怖さを目の当たりにする作品でした。

若い人は特に他人事のようかもしれないけど、
先々を考えると自分事。
結末だけ知っても作品の本質は全く伝わらないと思うので
年齢問わず、考えるきっかけになる作品になりますように。



◆ひとりごと
個人的に安楽死は状況によるかも
しれませんが賛成です。
国が決めた制度と考えるとぞっとしますが、
どのみち世でいう”孤独死”というのがまっている
自分にはメリットである側面を感じてしまったのも
また複雑なところ。
(諸々、後始末をしてもらえるというのは助かる)
仮に骨がゴミ処理場いきだとしてもね。

ただ、自分の事じゃなくて、親や家族の事
パートナーのこととなると、また考え方も違ってくるし
SFみたいな話なのに、あながちそうは思えないという
絶妙な内容だなぁと思ってしまった。
mmm

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