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PLAN 75のHKのレビュー・感想・評価

PLAN 75(2022年製作の映画)
3.8
そろそろこういう映画ができる頃だとは思っていました。
ごく近い将来、75歳になったら自分で死を選択できる“PLAN75”が制定された日本のお話。
“PLAN75”、まるでよくある保険かローンの名前のようです。
国が高齢者に申込を推奨しており、病院や役所ではTV画面で案内動画も流れているし、PLAN75のノボリが立ったコーナーには申込用紙も常備されています。

国が高齢者の自殺を奨励している恐ろしい話のはずなのに、それらが日常に静かに浸透していく描写がいかにもありそうで、あまりに自然に描かれているため、これが数年後の日本だといわれてもあまり違和感はありません。
昔『ソイレント・グリーン』というアメリカの近未来SF映画で、やはり年寄りが自分の意思で死を選べる施設が出て来たのを思い出します。

死を選べば国から10万円が給付され、葬式代にしてもいいし、美味しいものを食べたり旅行するのも自由。
火葬は合同なら無料、「合同の方が寂しくないという方もおられますよ」。
役所の若い係員は保険の案内でもするような口ぶりだし、聞いているまだまだ元気そうな高齢者が「私このプランに決めちゃおうかしら」なんて話しているのがとてもリアル。

75歳といえば日本では後期高齢者(65~74歳が前期高齢者)になる年齢。
2025年には日本で最も人口の多い団塊の世代が後期高齢者となり、約3人に1人が高齢者になると言われています。
ちなみに日本人の平均寿命は、女性約87歳、男性約82歳ですから75歳はかなり早い。

これから孤独な単身高齢者は急増すると思われ、もしもこの制度ができたら残念ながら利用する高齢者はけっこう多いのではと思わされます。
冒頭、ある若者が高齢者施設を襲撃して高齢者を殺害するという、相模原障害者殺傷事件を思わせる事件が描かれますが、これも遠くない将来起こりそうな事件です。
日本の少子高齢化は、ジリジリと雇用や医療・介護、そして若者の未来に影響しています。

本作は地味だし、新人監督の作品らしくまとまりに欠ける印象はありますが、面白いかどうかとは別に、今、この時期にこのテーマを考えさせる意味でとても重要な作品だと思います。

倍賞千恵子が深く刻まれたシワを隠そうともせず堂々と演じていたのが印象的。
本作は日本・フランス・フィリピン・カタール合作(カタールってどこ?)。
この作品もまた、観る人の年齢や環境によって大きく感想が異なる映画でしょう。
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