うめ

PLAN 75のうめのネタバレレビュー・内容・結末

PLAN 75(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

この映画は倍賞千恵子が主役と決まった瞬間、
勝ったも同然だった。
寅次郎の妹さくら。あの聡明で兄思いの優しい女性が年老いて皺まみれになり、指が曲がり、ホテルの清掃員として孤独に暮らしている。その現実を見せつけられる残酷さ。柴又の団子屋はきっともう潰れて、工場勤めの夫も先立ち、息子とも疎遠。さくらのまま、目の前にいる。これほどリアルな現実はない。

PRAN75はもちろん架空の政策だが、
私たちはいまPRAN75直前の現実の中にいる。
つまり政策として法案成立していないだけで、
ひとつ間違えば明日からでも実施できるのである。もしかしたら、私たちの気づかぬ場所でもう実施に向けた検討は始まっているのかもしれない。身近すぎる未来。
この物語の凄さはそこにある。

保険証を廃止することで高齢者が病院に行きにくくする。リカレント学び直しを推進してもう学べない老人たちを追いやる。それらはすでに始まっている。PRAN75を合法的に、自発的に実現する序章といえる。

いかに国家は冷淡か。この映画では公園のベンチでホームレスが寝られないようにするシーンでそれは一瞬垣間見える。

「りんごの木の下で」は以前から名曲だと
思っていた。

あの時代。決して裕福ではないが豊かだったあの頃。人々は歌を歌うことで元気を出し、笑い、励まし合った。希望の歌。

もはや希望などない。明日から生きる糧すら無い。それでも主人公は夕陽に向かって「りんごの木の下で」を口ずさむ。
抗うことこそ生きることなのかもしれない。
微かな希望を見た気がした瞬間だった。
多くのことを教え、警告する作品である。
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