いち麦

僕らの世界が交わるまでのいち麦のネタバレレビュー・内容・結末

僕らの世界が交わるまで(2022年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

息子ジギーも母エヴリンも見ていてとてもイタい。でも、すれ違う親子2人が最後にようやくお互いに目を向けようとする着地は人間の成長譚として清々しい。物語はちょっと拗れた親子関係の修繕を描いてはいるものの、その奥にはもっと普遍的なテーマが見える。こういう人たちは周りにも結構いるんじゃないかと。大きなこと偉そうなことをやろうとする前に、まず自分や身近な問題に向き合いなさい…映画はそうアピールしているようだ。

息子ジギーは殆ど中身が空っぽなのに格好つけて“何者”かになりたがっている。ライラを好きになってようやく自分が虚ろなのが見え始めるが、彼女から最期通告を受けるまで「自己中心的過ぎ」という自身の問題が分からない。
一方、母エヴリンは親離れしていった息子ジギーの代わりに、彼女の職場であるシェルターに母親と身を寄せてきたカイルを可愛がり、お節介が過ぎる。彼を思いのままに手懐けようと必死に干渉。カイルが従順で彼女の前で“良い子”ぶっている理由が見えていない。

自分が紹介したマルセラなのに、カイルが彼女とスペイン語で話し込み出すとエヴリンは嫉妬して彼を連れ出そうとしたり、カイルが学校でランチを取っている最中に放送で呼び出されると、とても面倒臭がる姿を見せたり…。彼らの自をさり気なく見せる辺り、キャラクターの内面を窺わす描写が行き届いていた。秀作。

字幕翻訳は松浦美奈氏。ライラの詩とジギーが曲をつけてできた「マーシャル諸島の歌」の歌詞が余りにも直訳過ぎでとても残念。
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