GreenT

ザ・ホエールのGreenTのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
3.5
基本的に『レスラー』です。

チャーリー(ブレンダン・フレイザー)は超肥満で引きこもりの中年男性。オンライン・カレッジでライティングのクラスを教えている。心不全の兆候が表れ、看護婦で唯一の友達リズ(ホン・チャウ)は病院に行けと言うが、チャーリーは健康保険がないので行かないと言い張る。

これ以上はネタバレになるので後述するとして、私は素直に感動しました。チャーリーの肥満はストレス食いから来ていて、愛する人を失った悲しみや、人生に対する後悔、で、根がいい人だからすごい気にしちゃって、それでストレス食いが止まらないんだなあと同情した。

だけどこの映画、fat shaming(肥満の人を馬鹿にしている)と批判がすごいらしい。なんか今って、なんでも批判しないと気が済まない世の中なのかなあ。

批判している人が何言いたいのか良く理解できないんだけど「特殊メイクで肥満の被り物を使って克明にそのグロテスクさを表した」ってのを怒っている人がいた。「なぜ本物の肥満の人を使わないのか」って。もうこの議論止めようよ。肥満の人しか肥満を演じてはいけない、ゲイの役はゲイしか演じてはいけない、みたいな・・・・

劇中でチャーリーがデブと馬鹿にされたり、彼の姿を目撃した人がビックリしたりという表現も批判されているけど、それって本当のことじゃないの?私はこれは、肥満の人に対して偏見がある一般人を批判しているんだと思うけどなあ。

この作品って、従来の「オスカー狙い」映画の典型的な「感動作」なのに作品賞とか監督賞とか脚本賞を獲らなかったのは、この批判のせいなんだろうか?私はエブエブは好きだけど、その対抗馬だった『西部戦線異状なし』だったらこっちの方が好きだなあ。

私は肥満の人どーのこうのより、チャーリーの周りにいる人の描写の方が気になった。特に今の若い人。チャーリーの娘は16歳?18歳?チャーリーの浮気のせいで両親が離婚し、お父さんが好きだったこの娘エリーは、すごいひねくれたティーン・エージャーになる。

この娘がすっごくキツイ娘なんだけど、なにかと言うと携帯で写真を撮ったり、録音したりして、それをソーシャル・メディアに載せる。載せられた人のプライバシーとか関係ない。

あと、チャーリーのオンライン・カレッジの生徒たちが、初めてチャーリーの姿をオンラインで見たとき、みんな携帯で写真撮ってる。

で、もう一人、トーマスっていう信心深い青年がいるんだけど、彼はチャーリーを救いたい、助けたいと言う。でもトーマスは、「自分のために人を救う」ってタイプの青年で好きになれない。

この若い子たちの描写が、すっごい好きになれなかったなあ。でも、今の子たちってこういう印象ある。なんつーのかな、昔より頭良くて、みんな幻想とかあんまなくて、裏の裏まで良く分かって達観しているんだけど、理屈ばかりで感情を理解しないというか。

てか、感情的にすぐ行動するんだけど、それを理屈で理解しようとするというか。

今考えるとあの「子供っぽい作文の方が正直で良い!」っていうの、あれってFat Shaming だのポリコレだのでがんじがらめになってる若い人たちに「いいんだよ!正直に思ったことを言おうよ!」ってメッセージなのかもな。

この映画って、サミュエル・D・ハンターって言う人が書いた舞台劇の映画化で、この人が映画用の脚本も書いている。この人はクリスチャンの家庭で育ったんだけど、自分がゲイなのですごい悩んで、過食症になった経験があって、それをストーリーにしたらしい。

やっぱ本当の感情があるから、ストーリーが刺さる。

でも、監督ダーレン・アロノフスキーですから!って感じで、かなり『レスラー』に近いなあと思った。いい人なんだけど、取り返しのつかない失敗をしてしまうお父さん。

これ観た人がこの物語のキャラに対してどういう感想を持つのかすごい興味ある。ネタバレはコメント欄で!
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