『ザ・ホエール』映画館にて視聴。
「ブラック・スワン」のダーレン・アロノフスキー監督作品。
ブレンダン・フレイザー主演。ブレンダンは第95回アカデミー賞で主演男優賞ほか、数々の映画賞を受賞。
劇作家サム・D・ハンターによる舞台劇を原作に、死期の迫った肥満症の男が娘との絆を取り戻そうとする姿を描く人間ドラマ。
A24配給。
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チャーリーはパートナーののアランを亡くして以来、過食と引きこもり生活を続けたせいで272キロという肥満体になる。看護師のリズに助けてもらいながら生活し、
オンライン授業の講師として生計を立てているが、肥満による心不全の症状は次第に悪化。
しかしチャーリーは病院へ行くことをかたくなに拒否し続けていた。
自身の死期が近いことを悟った彼は、8年前にアランと暮らすために家庭を捨ててから疎遠になっていた娘エリーに会うが、彼女は学校生活や家庭に多くの問題を抱えていた。
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映画の冒頭から視覚を奪う、チャーリーの巨体。
しかしその中には輝くような知性とユーモアがあり、理性も残されていることがわかる。
272キロという体に自分を閉じ込め、脂肪という重い鎖を巻き、
荒い息を吐きながら部屋を歩くチャーリーの姿に彼の苦悩が痛いほどに伝わってくる。
ここまでの姿になるまでを思うとそれだけで胸が苦しくなってくる。
驚くほど知性的な会話を交わしたかと思うと、
目をそむけたくなるような暴食の姿。
食事は自らへの罰、そして死を確実にするための手段なのだ…辛い。
その彼に手を差し伸べようとする偽善、同情、あるいは攻撃、そして許し。
それらをすべて受け止めて彼はどこへ行くのか。
リズとチャーリーの関係が家族であり親友でありながら、ある意味共犯関係でもある。
この映画の設定の中でもこの二人の関係がこの映画の核心のような気がする。
互いの傷の深さ、やさしさ、すべてを分かり合えっての共犯関係。
ホン・チャウが素晴らしい。彼女と一緒に私も泣きました。
チャーリーへの恨み、周囲への怒りから徹底的に攻撃的になっている娘、
エリー役のセイディー・シンクも熱演でした。
母親が「邪悪」というほどに一番嫌な方向に走っている16歳の娘の演技は
とてもリアルで、映画の序盤は嫌悪感を持ちました。
それから、若き宣教師役のタイ・シンプキンスくんは、
『アイアンマン3』の子役君なんですね!セイディーとのケミがすごく良かった。
ブレンダン・フレイザーは数々の賞を受けるにふさわしい、圧巻の演技でした。
「おぞましい」容姿にもかかわらず、上述したような人間的な魅力や知性がちゃんと伝わり、
私はチャーリーが好きになりました。
心臓の痛み、体の痛み、あらゆる不快感を抱えながら死の足音を聞いている男。
ブレンダンフレイザーはチャーリーでした。もうそれしか言えない演技でした。
※特殊メイクも素晴らしかった。
苦行のような死に方を選んだ男と彼を取り巻く人間の後悔・贖罪・許し。
非常に緻密な人物設定で描いています。
部屋の中だけのワンシュチュエーションですがこちらを引き付けて離さない
力強い作品でした。
(ちなみにほとんどのシーンで外は雨)