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ザ・ホエールのleylaのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
3.9
舞台劇を映画化した、薄暗い部屋でのワンシチュエーション作品。少ない登場人物で最後まで引き込まれて面白かった。ブレンダン・フレイザーが巨体の男チャーリーを熱演。

ひねくれた見方をすれば、太りすぎるチャーリーを見て、心のどこかで醜い、おぞましいと思いながら彼の行動から目が離せない。そこを利用した見世物小屋的な密室劇で、けっこう意地悪かな作品と思えた。

同性愛、太ったルックス、白人以外の人種など、根底には差別も孕んでいる気もして、そこに宗教が絡む、少人数だけど濃厚な設定でうまい脚本。

⬇️以下、内容に触れています。











恋人のアランを亡くし過食症により272キロの巨体となったチャーリー(ブレンダン・フレイザー)の最後の5日間を描く。登場人物はアランの姉リズ、元妻、娘、宣教師トーマス、ピザ屋の配達人だけ。

タイトルは小説「白鯨」に由来し、娘とチャーリーを繋ぐ役割もあり、娘や宣教師トーマスを小説の船長や船員になぞらえているのかと思う。キリスト教が色濃く反映されていて5日間というのもそこからかな。

チャーリーは同性愛者であり、最後は医療行為を拒み、自殺にも近いのでキリスト教に反している。人間は宗教的な偽善や神によって救われるのでなく、自分自身が正直になって人と繋がることで救われると伝えているのかなと思えた。深読みするとSNSに身を置く虚飾に満ちた現代人への批判にも思えたり…

チャーリーは最後の5日間で、身をもって娘に正直に生きることの大切さを伝えたし、最後の授業では生徒にも正直に醜い姿を見せて人生を終える。  

暗い海の中(部屋)から身も心も軽くなって明るい光(アランのいる場所)に向かっていくラスト。正直に生きた彼は幸せだったはず。死が絶望でないのがよかったです。

娘も父に正直な気持ちを吐き出したことで、やっと正直に人と繋がれ、彼女も救われたのだと思う。

チャーリーと娘は身勝手で共感できないし、宣教師トーマスが親に急に許されるのは都合が良すぎだが、舞台劇ベース、宗教がらみの内容と考えると納得できる。

ブレンダン・フレイザーのファットスーツでの演技にかなり見入った。ただ立ち上がるだけでもスリリングだし。リズを演じたホン・チャウの演技が誠実みがあり魅力的だった。
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