KUBO

ホワイトバード はじまりのワンダーのKUBOのレビュー・感想・評価

4.0
『ホワイトバード はじまりのワンダー』 東京国際映画祭ガラ・セレクションでの上映にて観賞。

涙を禁じ得ない、素晴らしい作品だった。

問題を起こして以前通っていた学校を退学になったジュリアンは新しい学校に馴染めずにいたのだが、そこにフランスからおばあちゃんのサラ(ヘレン・ミレン)がやってくる。

いじめの加害者になった過去から立ち直れないジュリアンに、サラおばあちゃんは自らの過去の体験を語り始める。

それは第二次世界大戦中、ドイツの占領下にあったフランスで、ユダヤ人として生き延びた、過酷だが奇跡のような話だった。

ナチスがユダヤ人を大量虐殺した話は有名だが、極端な優生思想からゲルマン民族であったとしても障害者は抹殺していたことをご存知だろうか?

ナチス統治下で儚く揺れるユダヤ人少女と松葉杖の少年の淡い恋。

本当に涙なくしては見られない感動作ではあるのだが、見ながらどうしても今のイスラエルのガザ侵攻が頭をよぎって集中できなかった。

劇中に”Never Again” という張り紙もあるんだけど、あれだけのことをされたユダヤ人に、かつての教訓は生きないのだろうか?

本作の中では、ユダヤ人であれば子供でも抹殺しようとナチスが迫り、劇中フランスから逃げていくユダヤ人が言う「エルサレムで会おう」。

そう、そのエルサレムがあるのが、今ガザを攻撃しているイスラエルだ。今ガザでは40000人の死者の内、16000人が子供だという。

「やっぱりユダヤ人は…」などと思われるようになりそうで怖いが、「この悲惨な歴史を繰り返してはならない」のだ。

このサラおばあちゃんの昔語りと同じことを、今のガザから生き延びた人が数十年後にするのだろう。こんな悲惨なことがいつまでも「昔」のことであるように、今の平和を祈るしかない。

また、どうしてこれが『ワンダー 君は太陽』に関係があるのか(?)と思ったら、原作者が同じなのね。『ワンダー』でいじめっ子の側だったジュリアンくんの救済まで描かなければ『ワンダー』の真の世界は完結しないという作者の思いからできた作品なのだそうです。

余談が多くなりましたが、本作自体は素晴らしい作品。ぜひ多くの方に見ていただきたい。
KUBO

KUBO