ロアー

ハッチング―孵化―のロアーのレビュー・感想・評価

ハッチング―孵化―(2022年製作の映画)
3.7
絵面はオシャンティなのに、不穏漂いまくりの北欧ホラーを観てきました。
個人的なイメージとしては、ヨロコビだけがインサイドしていて残りの悪い感情が全部出て来ちゃったパンドラの箱みたいなダークホラー版「インサイド・ヘッド」。やっぱり北欧の映画っていろいろ容赦なくエゲつなくて最高です。

"理想の家族"ってことで、おうちの壁紙もインテリアも主人公ティンヤやママの服も全部大好きなやつでした。あんなおうちに住みたい。
母娘だけじゃなく、父息子の見た目もそれぞれのミニコピーなのがあからさまで、そこはちょっと面白くて笑っちゃいました。

ホラー要素としてはかなり正統な怖がらせ方をしてくるので、くるぞ!と思った時に目を逸らしておけば怖いの苦手な人も大丈夫なやつでした。
グロもあるけど、たかえさんが事前に「私のNG要素あるよ」と教えてくれていたので、心構えができたのでそこも何なくクリアしました。
ありがとうたかえさん。今度口に何か入ってしまう映画を先に観たら教えるからね。

ネタバレになるので言葉を濁すけど、この手のストーリーでどっちのオチに転ぶのかが測り切れなくて、ずっとどっち?どっち?と翻弄されながら最後まで観ていたんですけど、なるほどそっちでしたか。確かにそうですわ。

メタファーも多い映画だったので、その辺はネタバレなしに語れないので以下に分けて書くことにします。


↓以下ネタバレ注意↓









要素や符牒がたくさん散りばめられていて、細かいところまで気を遣って作ったのが伺える映画でした。

例えば、浮き出た背骨、痩せた?という母親の台詞、急なガツガツ食い、鳥の特性でもある吐き戻しによる餌付け、それらによる摂食障害のほのめかし。思春期の女の子に多い病気ですよね。
そもそもいくら大会のためとは言え、グレープフルーツ半分程度しか与えず、その食事を花で飾る母親の狂気っぷりが鼻血シーンよりマジで怖かった。

犬を埋め直したのが父親というのも、見て見ぬふりでことなきを得る父親のスタンスが現れていたし、父親もかなり悪いところがあったよね。

ママの浮気相手が1番まともだったけど、ホントにいいやつだったらそもそもあんな状況になってなかった件。父親がほぼ空気なので、母娘の関係を客観的に見て指摘してくれる存在って重要だったのにな。体操のコーチも結局そこまで踏み込んでこなかったし、ティンヤには本当に逃げ場がなかったんだよね。

最後は後味悪いオチだったけど、少女性の終焉って結局こういうことなのかな?多分この映画「RAW」と一緒のジャンルとして括っていいはず。

ずっとずっと真っ白な服を着て天使のように描かれていた少女ティンヤの最期。ママの足の傷もそういうことなの?きっとそうなんでしょうね。あんなかわいかったティンヤもママのような大人になってしまうんでしょうね。

これが男性の作った映画だったら少女性に幻想抱いてそうだな〜と思いつつのバッドエンドなんですけど、女性監督となるとバッドエンドとも言い切れなくて、少女が大人になるための生々しくてどうしようもない一種の通過儀礼というか、無垢なまま大人になることは決してできないというみんな知っているけどあえて口には出さない性(さが)というか、それとどんなに毒親でもどんなに歪んだ関係でもどこか決して断ち切れない母娘の関係性だったりとか。観る人の性別や自身の母娘関係によっても見方が左右される映画だと思いました。とりあえず、観た後にこうして心に影を残していく北欧の映画の雰囲気がやっぱり大好きです。
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