イトウモ

はい、泳げませんのイトウモのレビュー・感想・評価

はい、泳げません(2022年製作の映画)
3.0
お話と演出とがどちらにも振り切れずなんとなく、あまりよくない意味でちぐはぐだなぁ、と感じた。
素敵な画はたくさんあるのだが。

スプリットスクリーンや、俳優によるアニメーションの書き込み、水中の合成映像、フレームの越境。実験なのか手数が多い割にいまいち垢抜けなく、極端な異常性も感じない。

それでいて、お話ともちぐはぐな印象を受ける。脚本ありきですすむなら、これは綾瀬はるかのシズカコーチの人生が劇的に変わる話でなければ片手落ちだと思う(マンゴールドはそうしますよね)。
実験っぽい演出は映画の虚構性というか、幻想性を高め、そのせいで「小鳥遊さんとシズカコーチの話」ではなく、「小鳥遊さんだけの話」であることに座りが良くなってくるのだが、それにしては小鳥遊さんが大人しすぎる。それなら、カラックスまで極端にいかなくてもデプレシャンくらいの自分勝手さに振り切ってほしかった。

水面の波紋の運動を撮るのは、フランス映画の伝統なのでバシュラールから始まるのはギャグにおさまらず、確かに正しい

1番の見どころは、綾瀬はるかの引きの演技がこんなに魅力的なのか、という驚きである。あの丸みを帯びたがっしりした肩! プールの高低差を利用して長谷川より、綾瀬が大きいかのように見せることに映画は成功した。地上で車に怯えるとき二人の大小関係は見事に逆転する。
プールで溺れた小鳥遊を助けるためにクロールで直進して、垂直に潜る彼女の踵が水面から消えるまで見守る長回しにいちばん感動した。