監督:渡辺謙作(2022年・日本・113分)
原作:高橋秀実(たかはしひでみね)のエッセイ『はい、泳げません』
「大丈夫、私が助けます」
なんて頼もしいことばでしょうか。
「あなたならできる!」と背中を押してもらっても、やっぱり不安で立ち止まってしまう時、「大丈夫、私が助けます」と言われたら…
失敗しても大丈夫なんだ。助けてくれるひとがいる。そう思えたら少しは頑張れるかも。
小鳥遊雄司(たかなしゆうじ/長谷川博己)は、泳げません。それで、思い切って水泳教室に通う決心をします。
水に顔をつけることも出来ない小鳥遊が「僕が溺れたらどうなりますか?」と聞いた時、「私が助けます」と言ってくれたのが水泳コーチの薄原静香(綾瀬はるか)でした。
実は、そんな静香コーチにもトラウマがあって、彼女も一人で戦っていたのです。
実際に観るまでは、ほっこりしたコメディなのかなと思っていました。でも、意外にシリアスだったので戸惑いました。だって、笑う気満々だったのですから。
小鳥遊がこの年齢で水泳を覚えたいと思った理由。
別れた妻の美弥子(麻生久美子)との友だち同士のような会話からは想像も出来ない、過去の辛い出来事。
プールから出た静香が道路を歩く時の、まったく意外な必死な姿。
それらの意味が、ストーリーの進行とともに分かって来ます。
小鳥遊の水泳仲間のオバチャンたちが(ウザイ時もあるけれど)、あっけらかんとした良い人たちでした。小鳥遊をイジリながらも全力で応援してくれます。
きっかけや理由は違えど、それぞれがトラウマを乗り越えようとしているんですよね。
小鳥遊が大学の哲学の先生という設定ですが、その思考が普段から論理的であるのと同様に、泳ぎを習っても頭で覚えようとするのが可笑しかったです。そんな彼だから、記憶の一部分を失くして頭の中の整理が出来ないまま苦しかったのだろうと思います。
本作の中でのたった一つの違和感は、美弥子(麻生久美子)の関西弁でした。もしかしたら、夫の小鳥遊の生真面目さと対照的にしたかったのかも知れないけれど・・・