カツマ

友情にSOSのカツマのレビュー・感想・評価

友情にSOS(2022年製作の映画)
4.0
染み付いて取れない濃淡。それは潜在的な差別となって表面化し、永遠に分かり合えない溝のように立ち塞がる。時代は流れ続け、差別は語り尽くされた、はずなのに。それは和気あいあいと生きる学生たちの前にだって横たわる。仲間達の友情にまで亀裂を入れてしまうほど、笑い合えたあの日々がただひたすらに恋しかった。

今作はアマゾンプライムで配信中の人種差別をテーマに据えた青春コメディである。黒人とヒスパニック系の男性三人の家内で、ある夜、何故か白人の少女が泥酔して倒れていたら?というシチュエーションをもとに、黒人への潜在的な差別の有り様を浮き彫りにする物語。警察を呼んだら怪しまれるのは確実、と思わせる黒人のアイデンティティは非常にリアルな描写であり、下手をすれば警察に銃を向けられ、最悪殺される、という前提がアメリカ社会の大きな闇でもある。それを学生たちのパーティーの夜にぶち込み、混沌とした逃避劇へと還元したサラリと重い問題提起作品であった。

〜あらすじ〜

黒人のクンレとショーンは卒業を間近に控え、数あるパーティーを全制覇する、という荒唐無稽な計画を実行に移そうとしていた。優等生のクンレは実はその案に乗り気ではなかったが、ショーンの方はパーティー制覇に乗り乗りで、ショーンに押し込まれる形でクンレは渋々、パーティー制覇について行くことに。二人の住む家にはもう一人、カルロスというヒスパニック系の友人がいたが、ショーンはカルロスのファッションなどのダサさから、彼の分のチケットは最初から買うつもりはなかった。
研究室に卒業製作の細菌たちを収納し、これからパーティーに向かおうとしているところ、クンレは細菌の入っている収納のドアを閉め忘れたことに気付く。パーティーに向かう前に研究室にも寄らなくてはならなくなった二人は、バタバタと家に戻ると、そこには泥酔して倒れた少女がうつ伏せで寝ていた。てっきり家でゲームをしていたカルロスが何か知っているかと思いきや、カルロスも少女のことは知らないと言い出して・・。

〜見どころと感想〜

例え、やましいことがなくても黒人というだけで銃を向けられる。そんな悲しすぎる現実を青春ドラマに乗せてお届けする、よく練られた人種差別映画である。イギリス出身の黒人のクンレ、アメリカ生まれのショーン、二人の価値観の隔たりが友情に亀裂を生み、警察を呼ぶ、呼ばないの選択肢すらも危うくしてしまう。実際、白人かと思われていた青年にヒスパニックの血が混じっている、と判明した時の白人女性たちの反応には強烈な皮肉を感じた。『人種』という壁は潜在的にまだまだ高く、そこにある種の区分けが為されているのが残念ながら真実なのだろう。

ショーン役を演じたRJ・サイラーは『僕とアールと彼女のさよなら』に出演していたあの黒人の少年で、その後も『パワーレンジャー』などにも出演し、活躍の場を広げている。同じく主演のドナルド・ワトキンスは優等生役にピッタリとフィットするピュアそうな瞳を持つ青年で、今作で初めて観る役者さんであった。他ではレイシスト役での演技経験もあるサブリナ・カーペンターが、ややその雰囲気のある役柄として登場。がなり立てるようなヒステリックな演技が本作のコメディタッチの作風に合っており、ラストの一幕はこの映画を象徴するようなエピソードだったと思う。

ただ、一番微妙だったのが邦題に『友情にSOS』というタイトルを選んでしまったことだろう。これだと友情物語が主軸ということになってしまうし、隠された多くのメッセージを模する役割を果たせていないように思う。人種差別は固い友情の絆すら危うくしてしまう、というSOSはあるけれど、本当の危機はもっと多重構造で複雑なのだと思う。アマプラオンリーでしかも邦題が微妙という見つけづらい作品ではあるけれど、その巧みに盛り込まれたメッセージは多くの人に伝わってほしいと思った。

〜あとがき〜

Filmarksでの評価も良かったようなので試しの鑑賞でしたが、これは良くできた映画でした。
青春コメディと人種差別のバランスが絶妙で、主人公たちの心の揺れ動きの表現が非常に上手い。彼らはこんなシチュエーションだと、こんな感情になる、という導線の引き方が素晴らしかったと思いますね。

あのラストはどちらが良かったのか。エンドロールまでしっかり見届けて判断してほしいです。コメディで終わるか、スリラーで終わるか、どちらの側面もあるのであのクライマックスだったのかな、と自分の中で昇華しています。
カツマ

カツマ