カツマ

グッド・ナースのカツマのレビュー・感想・評価

グッド・ナース(2022年製作の映画)
4.2
沈黙は心の内と静寂を語る。平熱の殺意、誰にも悟られない狂気。その真意はどこにあった?何度語りかけたとしても、その言葉は濃霧の奥へと消えていく。彼は良き看護師の、はずだった。良き友人でもあり、優しい一人の男に渦巻く知られざる一面。しかし、その内面は分からない。彼は表面上、どう見てもグッド・ナースにしか見えなかった。

今作はジェシカ・チャスティン、エディ・レッドメイン、というオスカー俳優共演で送るNetflix映画である。原作はチャールズ・グレーバーによる実話を元にした同名小説から取られ、監督にはトマス・ヴィンダーベア作品で長く共同で脚本を執筆し、最近では『ある戦争』などでメガホンも取るようになったトビアス・リンホルム。監督の特色もあり、絵面は静か。その分、主演二人の演技力が際立つ作りとなり、その沈黙の長さが感情の迷宮へと誘っていくような作品だった。

〜あらすじ〜

パークランド記念病院に勤務する看護師のエイミーは、二人の娘を抱えるシングルマザーで、心臓病を患いながらも、良き看護師として勤務に従事していた。彼女は非常に優秀かつ患者へも親身になれる人柄だが、心臓病の負担と日々の激務などで身も心も限界にきてしまっていた。
そこへ同僚として男性の看護師、チャーリー・カレンが新たに雇用されると、エイミーは彼とバディを組む時間が徐々に長くなっていく。チャーリーは温厚な性格で看護師としても優秀、エイミーとチャーリーが友人関係を築いていくのは自然な成り行きだった。次第にチャーリーはエイミーの娘たちの世話を買って出たりと、エイミーの心の支えとなり、彼女の心身の負担も少しずつ少なくなっていく。だが、彼の着任後にある入院患者の不審死が発生。それが発端となり、警察が捜査を開始。警察側は過去の履歴からチャーリーを第一容疑者としてマークするようになり・・。

〜見どころと感想〜

実際に起こった連続殺人事件をもとにした作品で、その淡々とした恐怖が徐々に迫り来るような物語。序盤は仲を深めていく二人の過程を、中盤からはエイミーがチャーリーに疑惑を抱き始めるため、一気にサスペンス映画へと舵を切る。何故、その事件はこんなにも肥大して放置されたのか?その過程もまた病院側と警察側のやり取りで生々しく描き出されている。

主演の二人の演技力が凄まじく、この二人を見るための映画と言ってしまっても過言ではないだろう。ジェシカ・チャスティンは心臓に病気を抱える苦しい役どころだが、特に後半にはその苦しさの先にある強さを見せてくれるような演じ分けが素晴らしかった。対してエディは序盤の好青年の雰囲気をそのままキープしながら、微妙に不穏さを醸し出すという非常に難しい役どころ。前半と後半で彼の笑顔の影の濃度が変わってくる演出との相乗効果も抜群である。
助演ではナムディ・アサマアはアマプラ配信映画などでも活躍、彼とバディを組むノア・エメリッヒは過去に保安官役なども経験しており刑事の空気感を自然体のように纏っていた。

この映画にはいくつかの沈黙がある。それは二人の絆を深めるものだったり、壊していくものだったりと様々だ。トビアス・リンホルムがデンマーク出身ということもあってか、北欧映画らしい沈黙の描き方が効果をあげており、不気味な重低音がその凍てつく表現に拍車をかける。大袈裟な描写は少ない。エンタメ性も薄い。はずなのに、この映画には静止画を魅せる力があった。それはひとえに主演二人のどっしりと重みを宿した演技の深さであり、それは実話ベースという裸身の恐怖が忍び寄ってくるような感覚だった。

〜あとがき〜

年の瀬のNetflix強化週間がスタートし始めましたね。毎年、10月後半くらいから配信されるネトフリ映画は強力で、オスカーも意識しているような作品もチラホラ。この映画に関しては俳優賞へのノミネートの可能性もありそうです。

ジェシカ・チャスティンとエディ・レッドメインの極上の演技を目撃できるだけで、2時間を捧げる価値はあるでしょう。主人公の焦燥とリンクしてハラハラとする瘴気を感じてほしい作品でした。
カツマ

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