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MEN 同じ顔の男たちのたくのレビュー・感想・評価

MEN 同じ顔の男たち(2022年製作の映画)
3.8
さすがA24だけあって癖のある奇妙な作品で、ジワジワ迫ってくる恐怖の描き方が自分の好みだった。過去の出来事に苛まれる女性の葛藤を寓話的に描いてて、風景映像が大変美しく、音楽の使い方も良かった。後半のグロ描写がけっこうエグくて苦手な人は要注意な作品。ジェンダーフリーが叫ばれるこのご時世で、タイトルからして思い切り男女の違いを強調してる。ジェシー・バックリーが不条理に振り回される役を好演してて、彼女が主演を務めた「もう終わりにしよう」も変な作品だったね。

夫と別れ、気晴らしのためカントリー・ハウスに短い滞在をしに来たハーパーの周辺で奇妙な出来事が起こっていく展開で、ひたひたと迫ってくるホラー的な見せ方が秀逸だった。トンネルでハーパーが反射音を使ってコーラスを組み立てていくところが素晴らしいんだけど、この後の心理的な追い詰められ方がめちゃくちゃ怖い。

カントリー・ハウスに滞在するハーパーが、たびたび夫と口論する場面を回想し、彼女の行動がある悲劇を引き起こしたことが分かってくる。これが自分のせいであることをどうしても納得できないハーパーに、なぜか宿の主人ジェフリーと同じ顔をした人物が周辺に何人も現れて、ハーパーを責めるような発言をして誰も味方してくれない。これはたぶんハーパーの心の葛藤を象徴してて、教会の真実の石みたいな彫刻(これはグリーンマンっていう中世ヨーロッパの彫刻のモチーフとのこと)がたびたび現れ、彼女の葛藤を助長していくのと同調するように不条理な事が起き始めるのがジワジワ怖い。

皆がジェフリーと同じ顔なのになんで小人だけ違う顔なのか謎だったんだけど、よく見ると同じ役者で、これは「キャプテン・アメリカ」でクリス・エヴァンスがマッチョ化する前の小さな姿の特殊効果と似た感じだった。全裸の人間が最後は教会の真実の石みたいな顔と同じになってたね。

たびたび登場するタンポポは生の象徴みたいな感じで、鹿の死骸の目の中にタンポポが舞い落ちるのが生と死の対比のように感じた。終盤で出産を繰り返す不気味なシーンがあるんだけど、これはもしかしたら「マルホランド・ドライブ」的なことで、ハーパーの友人が妊娠してたことに繋がってるのかな?本作の監督のアレックス・ガーランドは「エクス・マキナ」でも刃物のグロ描写の見せ方が見事だったね。
たく

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