シムザスカイウォーカー

MEN 同じ顔の男たちのシムザスカイウォーカーのネタバレレビュー・内容・結末

MEN 同じ顔の男たち(2022年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

女性が"普通の"社会生活を送ろうとすれば、大なり小なり必ず経験するであろう、男性からの不快な仕打ち。一つひとつは些細なように見えて、根底にあるのは強い女性蔑視。レビューを見ていると「映画からはさほど有害な男らしさや教訓らしきものは得られなかった」というようなことを言っている男性がちらほらいて心底恐ろしくなる。どうかお願いだから、普段から女性を虐げているという表明でないことを祈る。

ハーパーは神父から無礼な態度を取られたとき、明確な不快感を示してその場を去る。女性ならばトンチンカンなクソバイス(クソみたいなアドバイスの略)や無礼には慣れっこだと思うが、明確にNoという態度を取ることは勇気がいることだ。体格的に勝てない相手を怒らせてはいけないと本能レベルで感じ取って、当たり障りなくその場をやり過ごす人が大半だろう。さらに夫から殴られた経験があるなら尚更だ。だけど、女の落ち度にされるのにはあまりに酷い話。私も明確にNoと言える人になりたい。

女性自身も男性も、女性が精神的にも肉体的にも何かの犠牲になることに慣れすぎていないだろうか。反対に、男性がケアされない描写には不慣れで、暴力でハーパーを自分の思い通りにしようとするジェームズよりも、ジェームズの言うことを聞き入れないハーパーを酷い人間だと思う人もいるのだろうと想像する。

男(ジェームズ)が女(ハーパー)に求めているのは「愛」だと言うけれど、本当に欲しいと思っていたのは「支配できる女」ということが1番グロテスク。

目を背けたくなる衝撃の出産シーンは後世に語り継がれる名シーンだと思う。昨年、Netflixで公開されたドラマ『ヒヤマケンタロウの妊娠』で斎藤工が妊婦姿を披露し話題になったが、それとは別のベクトルでショッキングなビジュアル。出産して生まれてくる男たちは同じ顔の神父や警官。再生産される有害な男らしさのメタファーであり、その有害な男らしさの規範によって男性自身も苦しんでいることを示唆している。

女性ならば一度は『なぜ出産は女にしかできないのか。男も出産できたらいいのに』と思ったり、そう言う女性に出会ったりするだろう。出産によって女性たちが払ってきた犠牲はあまりにも大きい。最初は本当にグロテスクで気持ち悪かったのに、もがき苦しみながら産み落としていく姿に段々と爽快さを覚えて、もっと苦しめばいいのにとさえ思った。自分の中のミサンドリーが暴き出されたのだと思うと、恐ろしくて震えた。

余談だけど、男性は医学的に出産の痛みに耐えられないとされていると聞いたことがあるので、産み落とした後母体(父体?)が死んでいくところもリアルなのかと。