ギルド

世界が引き裂かれる時/クロンダイクのギルドのレビュー・感想・評価

4.3
【新たな生命が初めて観たのは狂った世界だった】【東京国際映画祭】【FINAL】
■あらすじ
ウクライナ・ドネツク地方の村で2014年のマレーシア機墜落を機に起こった緊張関係のなかで展開するドラマ。サンダンス映画祭監督賞、ベルリン映画祭エキュメニカル審査員賞など国際的に高い評価を受けた。

■みどころ
ロシアとウクライナの国境付近で爆撃で家に穴が空いても住み続ける妊婦と夫の話。

穴が空く映画というと同じ東京国際映画祭で上映された「ヌズーフ 魂、水、人々の移動」を思わせる。
しかし「穴が空く=自由になる、夢を観る」という戦争の爆撃が家族にとっては突破口的なヌズーフと異なり、本作は「穴が開く=社会の動乱で脅かす」という戦争の爆撃が家族のライフラインを破壊しようとする存在というストレートなコンテキストで展開していく。

この映画は実話であるマレーシア航空17便撃墜事件から着想を得た映画で、爆撃で空いた広大かつポツポツと点在する居住の画作りから妊婦のイルカ、夫のトリク、イルカの兄弟の三人の行く末が展開されていく。

イルカ夫妻の家はリビングルームの壁に南国の島のレイアウトが塗られている。リアルの広大で何もない更地と対照的に映される壁は映画が始まって数分で兵隊のミス?で爆撃されて穴が空いてしまう。南国の島という夫婦だけが共有する理想郷が外部の攻撃によって破壊され、ロシアとウクライナの個々人を殺す程の緊迫感という現実を突きつけていく。
この映画は一貫して家族だけのミニマムな理想郷を抱いている映画なのだ。
そして、本作はイルカ夫妻の行く末を描いていくにつれてイルカの兄弟とトリクとの間である亀裂を生じさせる出来事が発生する。これこそ、セルゲイ・ロズニツァ「バビ・ヤール」「ドンバス」で描いていた歴史的なしがらみの片鱗が牙を剥き事態の深刻さを色濃くさせる。

本作はそういった歴史的なしがらみ、歴史の中で起きた戦争という個々人の理想郷・幸せ・尊厳を破壊する刃に翻弄されそれでも強く生きていこうとするミクロな人間たちを描いていて、そこが魅力的な映画でした。

穴から広がる広大で途方もない画作り、「ヌズーフ」と同様な穴を塞ぐ事と攻防戦…も良いが本作の白眉はラスト15分の悲劇的な出来事だと思う。
ここに「敵の得体のしれない不気味さ」と「誰が敵か分からない中で尊厳を護る救いを汲む人は皆無の非情さ」を描いて、その先にある狂った世界を嫌でも刻ませる作りは大きなカタルシスがあって良かったです。

ぶっちゃけ本作を観たファーストインプレッションはあまりのあっけなさに「そんなことある?」「妊婦というのを悲劇の象徴に使うのは感じ悪いな…」という想いもありました。
が、ある程度時間が経つと本作の悲痛の叫びのようなものが見えてきて、そこに惹かれました。

作品の強度だけで言えばセルゲイ・ロズニツァの「バビ・ヤール」「ドンバス」が構成・主題・意図どれを取っても凄まじさはあるけど、クロンダイクもフィクションなりの魅力的な見せ場が多くて上手く差別化出来ていると感じました。
日本で上映されたら鑑賞するのをオススメします。
ギルド

ギルド