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教育と愛国のKUBOのレビュー・感想・評価

教育と愛国(2022年製作の映画)
4.0
「パン屋は〈日本の伝統〉に沿ってないから和菓子屋に変えさせた」という、あの呆れたニュース。安倍元総理大臣の元、決定された「愛国心」が盛り込まれた新しい学習指導要領に沿って改定されたのだそうだ。

くだらない。愛国心って、そんなもんか?

歴史の教科書から、いわゆる保守派が望まない記述が削られていく。

従軍慰安婦→慰安婦
強制連行→徴用・連行

「自虐史観」に基づくもので日本を貶める、からだそうだ。

「自虐史観」、確かに私も行き過ぎた自虐史観なら賛成しかねるが、問題は「事実に基づいて」「いつ、どのように子供たちに教えるか」だ。事実をなかったことにしてしまってはいけない。

沖縄戦の「集団自決」に関しても「軍の命令や関与」という表記が削られる。沖縄のおじいが「集団自決は神話だとか、胸が張り裂けそうな怒りを感じた」と思いを語る。

安倍元総理と維新の松井一郎が同席したシンポジウムで、安倍氏は「日本人というアイデンティティを備えた国民を〈作る〉」その上で「政治が教育に関与するのは当たり前」と発言している。

う〜ん、そうだろうか?

例えば、先に示した「従軍慰安婦」が「慰安婦」に書き換えられたケースは、私たちの知らないうちに「政府の〈閣議決定〉を尊重する」という新たに加わった規則によるものだ。

あの「安倍の奥さんは私人である」とか決めちゃう閣議決定ですよ。それを決めるのはアメリカが原爆を落としてから「ポツダム宣言」を突きつけた、とか言っちゃってる全然歴史を知らない総理のご意向なんだから、何をか言わんや。

さらに言えば、この保守派お気に入りの教科書を書いている東大名誉教授は「歴史から学ぶ必要はない」と言い切る。呆れてものが言えない。

元々日本会議のメンバーだった籠池さんが「安倍さんが、第一次政権の時と第二次政権の時と、ジキルとハイドのように全く違った」という発言はおもしろかった。いまは露骨な日本会議のやり方に疑問を持って離れたメンバーもいるという。

慰安婦問題を授業で取り上げて、吉村知事が炎上させた先生の問題も取り上げられる。さらに慰安婦の研究をしている大学教授を批判するのが、櫻井よしこと杉田水脈のおなじみのメンバーなので笑う。

ちょうどあの頃じゃあなかったかな? 自民党のホームページに問題教師がいたら学校名と教師名をチクれってページがあったの。すぐに削除されたけどね。

一番問題なのは、学術研究に基づかない教育への政治介入だ。

わかりやすく言えば、ウクライナでの戦争が終わったとして、ロシアの政権が変われば、あの戦争は「特別軍事作戦」などではなく「侵略戦争」だと定義して反省もするかもしれない。だが数十年が過ぎた頃、直接その戦争を知らない世代の政治家が「自虐史観」だ、あれは「特別軍事作戦」だったんだって言い出すよ、きっと。

そういうことにならないように、時の政府とは別に学術機関があるんだけど、それも気に入らないから、任命しないとか、解体しちゃえ、とか言ってたのが「学術会議」問題なわけでしょ。

テーマとしては地味かも知れないけど、教育って次世代の子供たちを育む大切な問題。いつのまにか直接政治が教育を弄り始めてる今、みんなが関心もっとかないとね。

最後に斉加監督の言葉を引用して終わる。

「教育は誰のためにあるのか、史実とどう向き合えばよいのか。その問いは右や左といったイデオロギーとは一切関係ない。いかなる政党であっても教育と学問の自由を侵してはならないのだ。これらの価値は、世界の国々でおびただしい犠牲を払って築かれたものだから。」
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