『ヒメアノ~ル』『空白』の吉田恵輔監督最新作。期待大。
前作『空白』が激重だが大傑作の作品で(↓レビュー)、本作はその反動か比較的ライトなコメディータッチの作品。
https://filmarks.com/movies/89585/reviews/125497065
しかし。『空白』のレビューをご覧頂くと分かる通り、抽象度高めのところでは結局同じことを訴えかけて来てるなーと。
私なりに『空白』から受け取ったテーマは以下。
「人間は本来的に「ディスコミュニケート」なものだという峻厳たる事実」と
「折り合いをつけるとはどういうことか」。
本作に適用すると、前者はまさに本作でストレートに描かれているもの。「見返りを求めないと言いつつ見返りを求めてしまう男と、恩を返すつもりがあると言いながらも恩を仇で返す女」のすれ違いブラック・コメディー。
毎度毎度、本当に嫌なところを突いてくるのよね。吉田監督。
自分自身にも多分にあるよなこういうところ。見返りを求めないと言いつつ…。求めちゃうよね…。
しかもこれ、作品内でもそうだったけど、どちらかに悪意があるわけではなく、ほんと些細なボタンの掛け違い・すれ違いからスタートするのよね。
お互いが
「見返り要らないよ!⇔恩にきます!」
のモードから、完全シームレスでステルス的に
「見返りわい! vs いやもう返したっしょ!」に移行するからなー。不可避かつ不可逆。
一点、本作の田母神の立場に立ってエクスキューズするならば、まじで「見返りが欲しい」わけではないのよな。
「見返りを貰えない自分」が嫌なんじゃなく、「恩を返そうとしないあなた」が嫌、という感覚。
まぁこんなロジックをこねくり回したところで相手の心証を変えれるわけでもなく、なので自然と嫌な関係に突入していくんでしょうな。
思い当たる節があり過ぎる!
閑話休題。
『空白』との共通点のもう一点、これ、吉田監督作品のめちゃ好きなところなんだけど、「折り合いのつけ方」に関する非常に達観した、かつ、一周回って逆にすごく優しい視点ね。
「人と人ってディスコミュニケートなものだよな」①
↓
「だから、人と人って折り合いなんかつけられるわけないわな」②
↓
「でも、折り合いをつけない、という折り合いのつけ方があるのではないかな」③
という論理展開。
この、②までのメッセージならただのシビアな目線でしかないんだけど、③のテーマまで展開させることで、人の業を全て包み込んだ上で認めていく、みたいな凄い視座に到達するんだよなー。
(本作のラストシーン、いろんな解釈が出来るだろうけど、私は上のテーマで受け取りました。結局折り合いつかないけど、でも良いじゃん。って)
あと最後に重要なところを言いたい!
これも『空白』と同じだけど、吉田監督、とにかくどんなテーマを描いた作品でも、エンタメ映画としてちゃんとおもしろいのよ。本作も、色々考えてなくても普通に、最初から最後まで面白かった。これ、凄いことです。
YouTuberの描き方が若干ステレオタイプ的なところがある気もしたが、まぁノイズになるほどでは無かったです。
吉田監督、どうも次は「教育」「コンプラ」等を絡めた激重作品を構想中とのこと。
これもまた期待大。