平野レミゼラブル

明るいほうへの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

明るいほうへ(2021年製作の映画)
3.3
【7人の中国アニメーターと金子みすゞの詩が紡ぐ、多種多様な暖かい愛】
現在グランドシネマサンシャイン池袋で開催中の中国映画の上映イベント「電影祭2022」のトップバッターを務めたアニメーションオムニバス。現代中国における「愛」をテーマに、7人の作家がそれぞれ別の絵本を原作としてアニメにしています。
ここ最近の中華アニメでは『羅小黒戦記』のような日本のアニメに近しい2Dや、『白蛇:縁起』等の高品質3DCGアニメなどの最新鋭のエンタメ映画が軌道に乗っておりますが、本作は絵本の世界を監督それぞれの表現で描いており実にアーティスティック。監督たちはそれぞれ中国、アメリカ、日本、イギリス、フランスと各国のアニメーション学校で学んで頭角を表した新進気鋭の作家がほとんどとのことで、中々ワクワクさせてくれます。
表現にしても、動く水墨画のようなアニメから、果ては紙細工のストップモーションアニメまで実に多彩。それでいながら、しっかりと元の絵本の雰囲気が伝わってくる安心感もあります。

話のラインナップは以下の通り。


『うさこのギモン』 監督:蘭茜雅(ラン・シーヤー)
うさこは好奇心旺盛なうさぎの女の子。今日もお昼ご飯を食べながら、お母さんうさぎに様々な「なぜなに」をぶつけ、お母さんうさぎはそれに優しく答えていく。


『ホタルの女の子』 監督:李念澤(リー・ニェンゼェー)
定年退職を翌日に控えた田舎のバス運転手は、最後の夜にいつもの山道で身体が光り輝く女の子と出会い、山の中へと導かれる。


『ぼくの汽車』 監督:趙易(チャオ・イー)
仮設住宅で暮らす3人の親子は、子供を車掌にしていつも汽車に乗っていた。ある日、子供は山の向こう側まで汽車を走らせることになるが…


『おじさんの糖水屋』 監督:俞昆(ユー・クン)
近くに高速道路が走るとある下町。おじさんが一人で経営する小さな糖水屋(甘味処)を舞台にした1日を描く作品。


『フン将軍とハー将軍』 監督:劉高翔(リュウ・ガオシャン)
天界の宝物殿を守護するフン将軍とハー将軍はそっくりで、そのことでいつも喧嘩が絶えない。今日も今日とて二人で揉めて大騒ぎを引き起こすが…


『祖母の青いブリキの車いす』 監督:劉毛寧(リュウ・マオニン)
田舎で暮らす少年のもとに、体が不自由で車いすに乗った祖母が越してくる。ある日、少年は車いすの中から秘密を発見して罪を犯してしまう。


『イーぼうの日曜日』 監督:陳晨(チェン・チェン)
小さな家庭料理のお店を営んでいるイー家の日常。両親が働く賑やかな店の中で子供は遊び、仕事を手伝い、宿題の作文をする。




どれも普遍的な愛を描いた作品なので国や年齢の如何を問わずに楽しめて、そしてどこか暖かな気持ちになれるのが良いですね。これまで観てきた中華アニメと比べると特に突出した何かがあるというワケでもないんですが、このシンプルに良い話ばかり観れた!という喜びはステキです。絵柄も表現方法もそれぞれ別なのに、全体的に統一されているように思えるのは、やはり根底にある「愛」がどれもしっかりしているからでしょうね。
面白いのはどれもただただ幸せなだけではなく、話のどこかに喪失感があって、それが私のような大人の観賞者にはノスタルジックに映るというところ。やはり子供も、かつて子供だった大人達も楽しめる本当に素晴らしいオムニバスとなっているのです。

しかしタイトル、金子みすゞの詩にそんなのがあったなァーと思っていたら、EDで流れる曲が中国語訳された詩そのものだったので驚きました。どうやら主に金子みすゞの詩に曲をつけて歌い続ける日本のフォークシンガーもりいさむさんの楽曲を使用されているようで、これは思わぬ形での日中交流。他者への優しい目線が象徴的な金子みすゞの詩が、非常に雰囲気に合っていて優しい気持ちにさせられます。


「電影祭」では再上映もされたばかりで、観ることが再び難しい映画となってしまいましたが、東京都写真美術館ホールで3月23日から4月3日まで開催される「世界の秀作アニメーション 2022 春編」で上映が決定されたそうなので、興味がある方はそちらから是非に是非に。


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多種多様な暖かい愛『明るいほうへ』感想
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