ノラネコの呑んで観るシネマ

夜を走るのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

夜を走る(2021年製作の映画)
4.5
大怪作。
金属のリサイクル工場に勤める二人の男。
一人は一応家庭を持ち、要領もいい。
もう一人は四十路の一人者。
真面目だけが取り柄で、フィリピンパブにお気に入りのホステスがいる。
人間関係が入り乱れ、無機質な巨大重機が動き回る工場は、最初から何かが起こりそうな緊張感が漂う。
そして二人の日常は、ある夜の事件によって唐突に終わりを告げる。
二人は、なんとか事態を収拾しようと動き出すが、ここまではまあ、異様な迫力はあるが想定内。
しかし物語の後半、二人のうちより普通に見えていた方が、ある意味「この世でないところ」まで行ってしまうのだ。
佐向大監督は平凡な男の心の隠された裏側に、もう一つの世界を構築する。
ここからの展開はあらゆる予定調和を裏切り続け、話の先は全く読めない。
普通に見える人の中の普通じゃない部分は、傑作「教誨師」の死刑囚たちを思わせるが、こちらでは暴走する男の行動が、思考で理解しようとするのを拒否してくる。
もはや人間の世界にいない男が、最後に見た光景を一体どう解釈するべきなのか。
ジャンルに当てはめることの出来ない、日本映画離れした挑戦的な力作である。