ミツバチゴロバチ

私のはなし 部落のはなしのミツバチゴロバチのネタバレレビュー・内容・結末

私のはなし 部落のはなし(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

6年間、京都で過ごしたことがあるのだが、まあそこ(関西)は部落問題が地域に密接であって、町を歩けば、ん?と空気感が変わる一帯があるわけで、ある時、バイトしてた店の常連さん(感じ良い優しいおばちゃん)が、ちょっと心を許してきたある晩、何のきっかけか近所のその話になり「あいつらの子供とウチの娘が同じ小学校に通っているだけで虫唾が走る」と言い出し、え?同じ人間、何が違うんですか?と問うと、「あいつらは犬を食ってるから血が汚れている。目が潰れたり病気持ちだ」と。うわ、マジでこんな人がいるんだという驚きと、いやこれは案外普通にいるんだろうと想像がつく根深さ。忘れられない会話だった。

そこから東北の街に移り住んで四半世紀、その間日常会話で部落の「ぶ」の字も出てきたことがないし、おそらくこの地に住む大多数の人がそんな差別があることを知らないと思う。

すっかり自分から遠い話になってしまったこの問題。さあ今どうなのか?と観たこの映画。何も変わっていなかった。

変わってないわけではない。この作品に出た20代30代の若い世代の当事者達は、年配の方達とは違い、直接心無い差別的誹謗中傷を受けたことはなさそうだし、インフラも整った普通の生活環境で育ち、貧困とも無縁そうである。
しかし彼らの誰もが恋愛・結婚で相手の「家」が絡むとその問題が浮上し、結果別れる経験をしている。付き合い始めたパートナーへのカミングアウトをするのか?しないのか?そのタイミングは?という葛藤を抱えている。

また周囲の人達の、悪意もなく直接自分に向けられたわけでもないが、偏見を孕んでしまっている忖度や言動にモヤっとさせられている。自分はそれに何か言うべきでなかったのか?でも何が言えたのであろうか?そのことをずっと引きずっている。
ほとんどの人達が考えなくてもいい悩みを、ただその土地に生まれたというだけで彼らは強いられている。

この映画には、目が離せなくなるような突出したキャラクターも出てこないし、隠れた闇が暴かれるわけでもないし、派手な事件が起こるわけでもない、それでも3時間半の長尺、まったく飽きることなかった。

“悪役“的な人間も出てくるのだが、監督の目線はフラットで、それぞれの「私のはなし」と専門家による「部落のはなし(歴史)」を丁寧に紡いでいく。
対話やインタビューのロケーションや美術(何気なく置いてある物)が、ナチュラルに見せかけて相当練られている気がした。

今後部落問題を語る・学ぶ時に、まずはこれを見よ。という素晴らしい作品ができたと思う。
そしてただ鑑賞してへ〜と終わる話でない。先に、すっかり自分から遠い話に、と書いたけど、この作品内でも言及されるように、皇室という「貴」なるフィクションを容認している我々にとって、遠いどころかまったく他人事ではない現在進行形の「私のはなし」であることが突きつけられた。