かきぴー

ダフト・パンク エレクトロマのかきぴーのレビュー・感想・評価

3.6
ニューシネマのコアの構造を抜き出し、セリフなしで『2001年宇宙の旅』の雰囲気で包み込んだ、監督Daft Punkがお送りする映画。非常に評価しにくいが、個人的には、なんだかんだシンプルにやりたいことができたのではないか?と思うので評価したい。ただし、言いたいことがないわけでもない...。

■(アメリカン)ニューシネマ的なものの追及
本作はぱっと見意味が分からないが、シンプルにニューシネマ的なものを追及しているだけだ。明らかに、映画にある程度造形があると思われる制作陣なので、意図的にニューシネマ構造を辿っているのだろう。Daft Punkが言っているが、『イージーライダー』を強く意識した冒頭からそれは始っている。

そもそも、(アメリカン)ニューシネマとは何なのか。はっきりとした定義は難しいが、「(主に)若者たちによる、大人(社会)による均質化された不自由なマジョリティ集団に取り込まれることを憂い、反体制的な行動に出る者達を追った映画」であろう。子供ー大人、自由ー不自由、カオスー整然、マイノリティーマジョリティ、みたいな二項対立で捉えると簡単だろう。また、ラストは悲劇的であることが多い、というかほとんどバットエンド。

その観点から考えると、『エレクトロマ』は恐ろしいほどニューシネマ的展開で進む。人間ーロボット、自然ー機械という形で進められるが、少し抽象化すれば完全に上記の内容と一致する。ロボットの二人は人間を目指し行動し、どん底に落ち、ラストは...。と、まあ、とてもニューシネマ的なのである(何回言うんだ)。本作はニューシネマ諸作品を綺麗に抽象化し、少しアレンジした形として具体化されており、逆に核となる部分が分かりやすくなっているので、「ニューシネマっていうのはこういう感じだよ」と誰かに説明したいほどだ。そこまできちんと観客に伝わるように作ってあるので(一部かもしれないが)、監督の映画への造詣の深さと製作者としてのレベルの高さを褒める他はないだろう。

■セリフがなく仮面を被っているからこその演出
この映画の表面的な特徴として、セリフがなく仮面を被っていて、非常に坦々と進むという点がある。まあ、Daft Punkがグラミー賞獲ったって喋らないキャラ設定だからこうなるのは当たり前なのだが、きちんとその特徴を武器として利用していたからエライ。喋らないからこそ、坦々としてるからこそ、仮面をかぶっているからこそ、彼らの心情を想像し深く寄り添えた。

そして、ストーリーテリングは分かりやすくせずに、アートっぽくしていたところは観た人誰もが感じることだろう。これが、良くも悪くも「それっぽい」映画に仕上げていた。と、言いますのも、これらのキューブリックぽい対称的なセットや、タルコフスキ-っぽいゆっくりとしたカメラワーク、リンチっぽいシュールな画はもちろんのこと、様々な映画から影響を受けたような映画で、ぱっと見「お、これは普通の映画じゃないぞ」と思わせる力はあったかもしれない。

だが、私は手放しにコレを誉めるのはどうかと思う。確かに、普通の映画ではないように見せているが、超越するような感動的な映像ではなかった。既視感のある、ただ退屈な映像もいくつかあった。そして、これらの映像が、作品のストーリーと非常に密接に関わっているとも思えなかった。ニューシネマ的な展開ならば、メリハリをしっかりとつけていれば効いて来るであろうショットもあったが、ずっとアレだとさすがに退屈だ。とは言っても、普通に撮れば30分くらいで終わるような物語を演出によって、あそこまで引き延ばし、しっかりと響くものに作っている時点で、あるラインは越えているのかもしれない。

■映像×音楽?
最後に、大切な「音楽」という要素について言及したい。まずは、意外にもDaft Punk は音楽制作には関わっていないということ。どうりで、ちょっと違う感じだ。それでも、音楽はやはり効果的に使われていた。特に、基本的には無音である、という構成が引き算的に音楽を引き立てていた。ずっと無音だからこそ音楽が鳴るときは重要な時で、エモーショナルま音楽が感情を揺さぶっていくのだ。セリフがない、表情がない、だからこその~、ということからも分かる通り、この作品は引き算的な演出によって支えられているのだ。

だが、宣伝文句であろう「目で見る音楽」なんていうものがあるが、正直、そんな内容ではなかった気がする。効果的に音楽は使われていたが、音楽はあくまでも演出の一部であるような印象が強い。もっと言えば、Daft Punk は音楽出身なのだから、もっと「音楽とは?」というようなテーマを押し出してほしかった感もある。まあ、今回はそれがテーマでは無かったので、「だから低評価!」なんてことはないのだが。

■おわりに
なんだかんだ、Daft Punk は超真面目なんだ!とわかった作品だった。計算し尽された映画全体の設計や、あくまでも映画監督に徹する姿勢など、ちゃんとした人達が映画という一つの芸術に真摯に向き合ったことは、まず嬉しい。だが、欲を言えば、この作風を維持しながらもっと情が動くような演出を体験したかったし、音楽についても深く切り込んで欲しかった感はある。

しかし、Daft Punk っぽい音楽をガシガシかければ、俺みたいなファンは口を開けて喜ぶことは誰しもわかっていた中で、このようなしっかりとした「映画」をつくったDaft Punk はやはりエライ!
かきぴー

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