ネノメタル

さかなのこのネノメタルのネタバレレビュー・内容・結末

さかなのこ(2022年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

1.OVERVIEW🐟
「のんさんがさかなクンとはまたまた突拍子もねえ役やってるな」ぐらいの認識で軽い気持ちで鑑賞に挑んだが、只者じゃなかった。
もともとのんさんの女優としての力量であったり、創作活動へのリスペクトも多分にある、のんファンの一人でもあるので、元々期待はしていたのだが、その期待の1億倍以上は面白かった。
彼女の演技の天才ぶりが最高に発揮されるてんじゃないか。
あともう全キャストがどハマりの超絶感動感涙爆笑の傑作ではないだろうか。
ミー坊子役の焼きタコの食らいついて離れなさっぷりから、
ヤンキー一派の青鬼の無駄に緻密なナイフ捌きから、
放任主義とは違うミチコの大海原を包み込む波のような優しさから、
理髪店のあのそっけなさすぎる店主から、
一時期流行った「マイルドヤンキー」ではなく本当に「マイルド(穏やか)なヤンキー」を演じ切った岡山天音とか、後演出レベルで言えば、全体的にトーンは穏やかなのに妙にリアリティを突き止めたタコの造形とか......もう上げればキリがないが、もう全てが魔法がかかったように魅力的なのだ。
そして最も重要なことだろうが、更にそれら全てを一つの物語が成立するように我々を導くミー坊を演じるのん(能年玲奈)の瞳の輝きの説得性たるや.....これ程爆笑しつつも感涙しつつもまた爆笑しつつも感涙しつつもみたいなrecursive(回帰的)な感情の浄化を促す映画作品があっただろうか?
次の章では本作での二つのAspectについて述べていきたいと思う。

2.Two Aspects🐠🐡
本作には二つのAspect(側面)から成り立っている作品だと思う。
まず一つは至っては冒頭でも、或いはパンフレットでもバーンと出てくるように【男か女かなんてどっちでもいい】と言うキャッチコピー。
そしてもう一つはストーリー全般で貫かれている【好きなものを続けていくこと】と言うテーマ。
前者に関しては、過去ののん関連作品では、コミカルテイスト込みのジェンダーレスな登場人物が出現すると言う意味は、一昨年と今年の夏に出演していた渡辺えり主催の舞台演劇『私の恋人』での成果が結実していると思ったし、後者のテーマに関してはのん自身の監督作品『ribbon』(2022)での【(アートは)ゴミじゃない】というテーマとの地続き感があったようにも思えるのだ。
そして今回そういう2つの側面が融合された最も最近の彼女のワークが総合化され結実した成果がこの『さかなのこ』に見出せるような気がするが如何だろうか(あと本編中、「ギョギョギョ」と言うセリフがあるが彼女の存在を一気にスターダムに押し上げたあの朝ドラでの「じぇじぇじぇ」オマージュだったりして)。
更に過去の映画作品とのシンクロでいうと2010年公開の荻上直子監督「トイレット」での「みんな、ホントウの自分でおやんさい」と言うキャッチフレーズであるとか、最近では『ディスコーズハイ』の「その『好き』が才能」と言うフレーズとガッツリシンクロするのだ。てか「その『好き』が才能」て『さかなのこ』のキャッチフレーズ以上にメッセージを要約してる気がするのだが。
 とにもかくにも、『さかなのこ』も上記の両作品共々エンターテイメントとしてのベクトルがとても近い系譜に位置していると思うので好きな人は全てハマるだろう。私がそうだから。

3.Focus🐡🐙🦑
確かに本作品はのん自身のキャラクターだとか、「さかなクン」自身が持つあのリアルとファンタジーを彷徨うような「取り止めのなさ」を上手くのん自身も持っている「不思議ちゃん」なキャラクターとがうまく融合し調和した事も大きな要因だろう。
ラスト付近のあのテレビ番組に出て大騒ぎする所なんかさかなクンの幻影がのんに乗り移っていたもんな。あれは鬼気迫るほど凄かった。
あと、先にも触れたが他のキャラクターもどハマっていたことも大きい。
特に井川遥さん演じるミー坊の母親ミチコによる
「何でも好きなことはやりなさい。」
「あの子は魚が好きで、絵を描くことが大好きなんです。だから、それでいいんです」
「成績が優秀な子がいればそうでない子もいて、だからいいんじゃないですか。みんながみんな一緒だったら先生、ロボットになっちゃいますよ」
「ミー坊、大きな海に出てみなさい。」
(全てうろ覚えだけど)などの全セリフがとても暖かくて優しくてどこか信頼に満ちていて見終わった今でも思い出しては泣けてしまう。
井川さんは本作の最優秀助演女優賞だと思う。
しかも場面によってはのんに表情がふっと似てたりするのだよね、普段井川遥さんとのんさん自体「美人」という共通点を除いてそんな似てると思わないんだけど。
それにしてもラスト付近の「ミー坊、私は実は魚が苦手なの。お父さんもお兄ちゃんも。」って台詞はもう爆弾発言レベルでドギモ抜かれましたけど💣
その他は共に絡むことはないけれど『ビリーバーズ』で迫真の演技を見せてくれた磯村勇斗&宇野祥平が180度感触の違う役どころを演じてたしで、特に磯村氏に至っては彼だと気づくのに時間がかかったほど。あと先に触れた個人的には『テロルンとルンルン』の引きこもり青年が印象的だった岡山天音氏がマイルドなヤンキーだったし、『四月の永い夢』での名演が印象的だった朝倉あき氏もこれまた今回はローカル番組のアナウンサー役というピッタリの役で出てたのも何だか得した気分だった。
2回目は他の登場人物、特にモモコ(夏帆)にフォーカスして、彼女の人の愛に飢えているが故に強がってしまう感に涙してしまった。あの割と千葉県の海など存在し得ない事を冷静に親友に教えていた少女時代を経て、あれからどんな人生を歩んで、なぜミー坊と家族になる事を諦めるような決断をして、その後どうなるんだろうなど色々考えながら観ていたものだ。
いや〜正に本作の描く色んな人生模様は魚図鑑のよう。相変わらず理髪店前の暇そうなタバコオヤジの存在の謎は解けずじまいだったがw
そして、そして、最も重要なのは、本作品はさかなクン原作の物語だからもはや彼が主役つっても差し支えないぐらいなのに今までありがちな偉そうに居座る「スーパーバイザー的ポジション」ではなくあくまで映画に自ら参加しつつ魚の生態なのの解説などもしているといういわゆる一キャスト・一アドバイザーとしてのスタンスだったのが彼の人柄の所以というか、本作全体をヒューマニズム溢れるものにしていたと思う。
とはいえ、彼の最初に登場してきたシーンで「お魚の話、しようぎょ!」と幼きミー坊ら小学生等に近づいていく様の「不審者」っぷりには少し殺気立ったオーラを発していたのは事実である。しかもさかなクン氏、原作者なのに逮捕されてしまうという異常事態だしで、あれは物語全体に光を与えるべく敢えて狂気を纏った演技に徹しようという気迫の現れなのか!!!というのは半分冗談で、半分本気だったりもします(笑)
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