鮎

チロンヌㇷ゚カムイ イオマンテの鮎のレビュー・感想・評価

3.5
あの狐の語りをどう理解したらいいのか迷った。
怯えた様子のキツネを見るとかわいそうと思ったけど、自分も生き物を殺して生きてきたし単に可哀想だと言うのは違うか。殺してもらって感謝しているかのような人間主観の語りはすんなりは受け取れない。
75年ぶりの開催となると、執り行うがわの生活環境は大きく変化しているし、儀式が持つ精神性も変化しているだろう。この儀式に真の精神性が伴っていたのかも私にはわからなかった。

でも正直、文化、伝統、風習というのは終わるべくして終わるんだと思った。それらが持っている暴力性や差別は今の自分には受け入れがたく、疑問や嫌悪感をもった。それは当事者たちも感じていたことかもしれない。

1986年の映像と言うことで、私はそれ以降に生まれ育った人間として、これらの風習やキツネ視点の語りについて強い違和感を覚えたが、2021年の映像を見て安堵した。これらアイヌの文化が映像として保存されることには価値があるが、継承されるべきではないと思った。終えるべき''文化''。それらの文化と、学校教育やら進路選択やらとの間で複雑な葛藤抱える中学三年生の少年に、素晴らしい文化を継承したいか?と何度も問いかける''大人''に軽蔑すら感じた。閉じていく文化を継承するために子供が夢を諦めるのはおかしいし。

また、儀式における酒の役割についても興味深かった。女が酒を作り、儀式を執り行う男ができを判断し、酒を飲む(儀式に参加する女性たちも飲んでたけど)。序盤で出てきた長老の妻?も若い頃夫は酒を飲んで大変だった、娘と死のうと思うほど辛かったと言っていた。美しい精神世界だとのたまっても、酒は酒だな。

色々な面で、アイヌの文化を知ることが出来て、見て後悔のない作品。
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