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不知火檢校の東京キネマのレビュー・感想・評価

不知火檢校(1960年製作の映画)
4.3
原作は、「昭和の黙阿弥」こと宇野信夫が十七世勘三郎にあてて書き下ろした歌舞伎芝居。 初演が1960年2月の歌舞伎座なので、なんとほぼ同時に映画も公開したという手際の良さ。 当時の大映は万事隙なくパブリもうまいし、鈍臭い東宝と違って企画の筋も良い。 なんでこういう映画会社がこの後10年そこそこで倒産してしまったのか不思議だ。

お話は座頭市の原型を見るようだけれど、こちらは座頭の裏面史のようなお話。 女を手篭めにするなんざ朝飯前、盗みも殺しも平気な悪逆非道の座頭が検校にまで登り詰め、その後に所業がバレて御用となってしまう因果応報物語。 従って、切った張ったも立ち回りもないが、むしろ心理劇に絞ったことで直線的にカタルシスに向かう快感がある。 勝新の芝居の作り込みも良いし、森一生の演出のうまさも相まって、日本式フィルムノワールの佳作に仕上がっている。

ということで、ようやっと1954年のデヴュー以来、永田雅一に優遇されるも鳴かず飛ばずだった勝新の初ヒット作となった。 これで勝新の 「可愛気のある乱暴者」 のキャラクターが定着し、『悪名』(1961年〜)、『座頭市』(1962年〜)、『兵隊やくざ』(1965年〜)の各シリーズに繋がっていく訳だが、それもこれも全てこの作品から始まったこと。 本作品無ければ、その後の勝新の人生は全く違ったものになっていたんじゃないかしらねえ・・・。
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